「会社に対する不満が蔓延している」、「なぜか人が辞めていく」、「社員にモチベーションがない」など、具体的な問題があるわけではないけれどなぜだかモヤモヤする職場になっていないだろうか。そんな悩みにおすすめなのが、近年話題の「組織開発」というアプローチだ。組織開発では、「対話」を通してメンバー間の「関係の質」を向上させていく。そんな組織開発のはじめ方を成功事例とともに紹介したのが、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)だ。本記事では、発売後即重版となった本書の出版を記念して、組織開発的な観点から職場にありがちな悩みの改善策を著者に聞いてみた。
「自走できる社員」を育てるには、判断基準の「見える化」が必須
――部下の指導は管理職の仕事のうちと考えられていることが多いですが、いつまでたっても自走してくれない部下に負担を感じている管理職も多いようです。細かな指導をしなければいけない時期は過ぎているのに、一向に自走できない部下を「自走できる社員」に育てる仕組みはどのように作ればいいのでしょうか?
「自走できる社員」とは、「自分の判断で業務を遂行できて基本的に任せておくことができ、例外的なことが起きた場合には遅滞なく上司に報告して判断をあおぎ、独断で作業を進めたりしない部下」という仮の定義のもと話を進めましょう。
このような部下がいたら頼りになるし、安心して仕事を任せられますよね。
まず「自分で判断できる」とはどういうことでしょうか。
これは業務成果を評価する「ものさし」の話です。
つまり、部下の頭の中にある良い仕事の「ものさし」が、上司の頭の中にある「ものさし」と一致している。
そしてそのことにお互い確信があってずれる不安がない、という状態です。
同じ基準で物事を見ているので、いちいち上司に対してお伺いを立てなくても大丈夫だと思えるわけです。
そしてもう一つは、既存の「ものさし」で測れない事態が起きたことを上司と部下が同じ感覚で認知できる、ということです。
「あれ、なんかおかしいぞ! 課長、こういう状況なのですがどう処理しましょう?」
こうしたイレギュラーな事案への違和感を共有できる上司・部下の関係であることも「自走できる社員」の要件でしょう。
いずれの場合もキーとなるのは「ものさし」ということになります。この「ものさし」は上司の主観的な判断が含まれるときは機能しません。
上司の(見えない)主観が基準だと、部下はいつまでたっても自分で物事を判断することができません。
逐一上司の判断を頼ることになり、「自走できない」状態に戻ってしまいます。
部下育成のカギは、管理職同士の協力にあった
この時必要なのは、上司側がどのような「ものさし」で仕事にあたっているかを「見える化」し、その意味をすり合わせるために対話を行うことです。
それが「自走できる社員」を育成するしかけとなります。これは上司にとってかなり骨の折れることなのではないでしょうか。
このような中で組織開発的なものの考え方では、管理職同士が集まってマネジメントのふりかえりや、意見交換をする場を別途設けることが多いです。
マネジメントはひとりで背負うには重すぎるので、時々悩みを吐き出して共有するのです。
他の管理職からの意見や応援に助けられることも多々あります。
「自走できる社員」育成の裏には「協力し合える管理職」というしかけも必要なのではないでしょうか。