「まじめに考えて」
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「いつか使える時に、とっておいて」

 博報堂の私の師匠、天才・藤井達朗は、どんなぶっ飛んだ企画を出してもボツとは言いません。「いつか使える時にとっとけよ」と言ってくれました。

 ダメなアイデアというものはありません。
(1)今使えるアイデア
(2)いつか使えるアイデア
 の2通りがあるだけです。

 オーディションに100回落ちたとしても、それは自分に合う企画にまだ出会っていないだけです。言葉が先か考え方が先かは、ニワトリと卵です。考え方を変えるのは難しいです。言葉を変えることによって、考え方が変わることもあるのです。

「もっと、丁寧に」
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「この字、好き」

 お客様への手紙・年賀状・ご記帳など、手書きの機会は意外にあります。編集者の赤入れも手書きです。大切な原稿に小学生のような字が書かれていると、「小学生か」と言いたくなります。

 それをグッとこらえて「もっと丁寧に」と言います。書かれている字の中から、読みやすい字をみつけて、「私、この字好きだな」と1個ほめると、ほかの字もきれいに書こうという気持ちが湧きます。これは人間の面白い感情です。

 ダメ出しは、ほめるチャンスでもあります。1割のいいところをほめることによって、9割のダメなところもよくなっていくのです。

「こんなことも、わからないの」
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「どう思う?」

 誰もが知っている基本的なことを聞いた時に、「わかりません」と言われるとせつなくさせます。その人は知識も不足し、考える意欲もないのです。

「エッ、こんなことも知らないの?」というのは、怒っているのではなく、半ば驚きも含んでいます。

 イラっとした時は相手に好感を与えるチャンスです。ほめて好感を与えるより、ダメ出しで好感を与える方がチャンスは大きいです。

 その言葉が「どう思う?」です。「できた?」ではなく、「どんな感じ?」、Do you understand? ではなく、

 How do you feel? です。どう思うかに関しては間違いはないのです。

「そういうところが、抜けてますね」
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「かわいい」

「そういうところが抜けてますね」と言うと、9割よくて1割ダメな時でも、全ダメになります。相手としてはショックです。

「抜けてますね」は「かわいい」と言いかえます。「かわいい」は「カッコいい」より上のほめ言葉です。「カッコいい」と言われて喜んでいたり、「カッコいい」と言わなければいけない関係は、弱い関係性です。

 部下が上司に「かわいい」と言い、上司がそれを受け入れる関係は、チームの絆が強くなります。1割ダメなところがあることで、9割のカッコよさよりも、もっと上のリスペクトが生まれるのです。