「会社に対する不満が蔓延している」、「なぜか人が辞めていく」、「社員にモチベーションがない」など、具体的な問題があるわけではないけれどなぜだかモヤモヤする職場になっていないだろうか。そんな悩みにおすすめなのが、近年話題の「組織開発」というアプローチだ。組織開発では、「対話」を通してメンバー間の「関係の質」を向上させていく。そんな組織開発のはじめ方を成功事例とともに紹介したのが、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)だ。本記事では、発売後即重版となった本書の出版を記念して、組織開発的な観点から職場にありがちな悩みの改善策を著者に聞いてみた。
 

社員に見捨てられる「嫌われ経営者」、すぐにやるべきたった一つの行動どんどん孤立していく経営者、その理由とは?(Photo: Adobe Stock)

経営者が経営者の役割を果たすほど、社員との距離は離れる?

――経営者が大きな力をもつ中小企業は、スピーディーな経営判断による機動的な展開が強みです。しかし、それが現場の社員に「朝令暮改」と受け止められることも。結果、社員が振り回されていると感じたり、疲弊してしまうこともしばしば。このような状況では、どのようなコミュニケーションが有効なのでしょうか。

 業績が安定している、あるいは伸びている中小企業の経営者とお付き合いしていて感じる、共通の優れた特長があります。

 それは、①情報を集めるネットワークがある②判断が早い③現場への影響力がある、です。

 典型的な例を挙げるとこのようなものです。国内外を飛び回って有識者と接点を持ち、鮮度の高い情報に触れる。短期の需要増減に目を光らせて年度予算の達成に必要な手を打ち、同時に中長期スパンで新商品開発や業態転換を構想する。タスクを分解して社員に的確に指示、実行させている。

 間近で見ているとほれぼれしますが、現場の社員の人たちからは、こうした経営者の頑張りは見えにくく、心の距離が離れてしまうこともあるようです。

「嫌われ経営者」が生まれる真の理由とは?

 頑張っている経営者の行動や考えは、現場でオペレーションをしっかり回そうと奮闘する社員からはえてして見えないもの。

 現場でこんな声を聞くことがあります。

「社長はしょっちゅう出張している。本当は遊んでるんじゃないの?」

「急に残業削減って言われても、それじゃ仕事が回らなくなる。現場の実情を分かっているんだろうか?」

「新商品開発って夢のようなことを言って…。そんなことより給料を上げてほしい」

「社長に何か言ったら何倍にもなって返ってくる。言われたことを黙ってやっておくのが無難」

経営者と現場が分かり合うための3つの対話

 経営者も現場の社員もそれぞれが頑張っているのだけれどすれ違う。

 これを解決するには、対話で関係性を築いていくという「組織開発」の考え方が役立ちそうです。

 次の3つのテーマに基づく対話がお勧めです。

1.経営情報の共有

 すれ違いの原因の1つは経営者と社員のあいだの情報量の差です。

 これを埋めて現状について話し合うのです。

 経営情報とは、短期で言えば受注・売上動向、中長期で言えばSWOT(強み、弱み、機会、脅威)などの将来の経営に影響を及ぼす分析結果です。

2.会社と個人の将来像

 すれ違いの原因の2つめは、時間軸の差です。

 長期の軸でなりたい姿を話し合い共有すると、変化を前向きに捉えやすくなります。

3.組織文化

 リーダーシップの強い経営者の会社には、言われたことをしっかりやるという、真面目で実直な組織文化が醸成されやすいものです。採用の段階からそうした人材を選んでいる可能性もあります。

 経営者の指示に疑問の声が挙がってくるようになったのなら、それは組織文化が変わりつつある兆候かもしれません。

 社員の自主性や主体性を重んじる組織文化を育む機会と捉え、組織文化をどう変えていきたいか話し合ってみましょう。

 働く全員が立場を超えて分かり合い、ハッピーであれば何よりです。