みんなが残業しているのに自分だけ帰るのは申し訳ない。それどころか、「みんなが帰れないのは私のせいだ」「困っている人がいるのに助けないのはおかしい」と、必要以上に責任を引き受けてしまってはいないだろうか。
そんな人に試してほしいのが、『悪いのは、あなたじゃない』に書かれている「心の傷」を癒す方法だ。著者は、SNSで大人気の心理カウンセラー・Pocheさん。人間関係、親子問題、アダルトチルドレン(AC)を専門とするPocheさんのもとには、日々さまざまな人たちからの切実な悩める声が寄せられているという。
本書では、実際のカウンセリング事例をもとに、実は意外なところに存在していた悩みの原因をつきとめ、解決へと導いていくプロセスが解説されている。本連載では、そんな本書から、必要以上に自分を責めてしまうクセをほぐすヒントを学ぶ。今回のテーマは、「必要以上に気を遣ってしまうクセをやめるには?」という悩みだ。(構成:川代紗生)

悪いのは、あなたじゃないPhoto: Adobe Stock

必要以上にまわりに気を遣ってしまう人

「よかったら、私それやりましょうか?」

 目の前に困っている人がいると放っておけず、ついそうやって声をかけてしまう。自分の仕事が山積みでも、へとへとに疲れていても、大変そうな人がいると平気な顔をして助けようとしてしまう。

 誰もやりたがらない仕事も率先してこなしてしまうため、上司から頼りにされるのはいいものの、いつの間にか「雑用を押し付けてもいい人」という扱いになっている気がして、げっそり……。

 そんなふうに、つい「いい人」のふりがやめられず、困っている人も多いかもしれない。

 心理カウンセラーのPocheさんの著書『悪いのは、あなたじゃない』には、そういった、自分のせいではないことまですべて「自分のせいだ」と思い込み、必要以上にまわりに気を遣ってしまう人のための、心の処方箋のような言葉が並べられている。

 本書によると、職場などの空気が気になりすぎてしまう人や、常に「助けなければいけない」という義務感に駆られている人には、共通点があるという。カウンセリングルームに訪れた相談者・Uさんの例を挙げ、こう語られている。

なぜだか分からないけれど「やってしまう行動」というのは、過去のできごとが無意識下で影響を与えていることが多いです。(中略)
親の顔を見て「悲しそうだ」と思えば声をかけ、「疲れている」と気づけば先回りして家事をこなし、「機嫌が悪そうだ」と思えば愚痴を聞く。Uさんの場合は、母親に笑ってほしいという一心で磨いた親を気遣うスキルが、他人にも発動していました。(P.35-36)

 このように、はるか昔の子どもの頃の記憶が、現在の「生きづらさ」に関係していることがあるという。

 この相談者Uさんは、母子家庭で育った。きょうだいの中で一番上だったこともあり、母の負担を減らそうと先回りして動くくせがついていたことに、カウンセリングを通して気がついたそうだ。

 さらに、親に強制されたわけではなくとも、子どもの頃に植え付けられた体験は、脳に強烈にインプットされてしまうとPocheさんは綴っている。

子どもの頃に植え付けられた経験というと、親に何かを強制されたり、親からひどいことをされたりしたとイメージする人が多いのですが、必ずしもそうとは限りません。親に何も強制されていなくても、お母さんを助けたいと思うことがあります。お母さんに笑っていてほしいと、Uさんのように頑張ることもあります。(P.37)

 つまり重要なのは、「どんな親だったか」「親にどんなことを言われたか」「親が何をしたか」などではない。「自分が」親に何を感じていたか、親のためにどう頑張ってきたかなのだ。

「私のせいで怒ってるのかも?」上司のイライラを気にしすぎてしまう理由

 私にも心当たりがある。仕事で何かトラブルが起きたり、上司がイライラしていたりすると「私のせいで怒ってるのかも?」と勝手に思い込んでしまい、自分の責任ではないことまで責任を取ろうとしてしまうのだ。

 あとになってから、「私のせいじゃないのに謝ってしまった……」「別に首を突っ込まなくてもよかったのに」と後悔することもよくある。

 本書を読み、振り返ってみると、忙しい両親に対し、遠慮してしまっていたことに思い当たった。

 共働きで、私は家で留守番することも多かった。毎日一生懸命働き、くたくたになっている両親の様子を頻繁に見ていたからこそ、できるだけ迷惑をかけないよう、「いい子」と褒められるような子でいられるように心がけていた。

 Pocheさんの言葉を読んでいくうちに、その頃の記憶が影響しているのではないかと、自分の感情と向き合うことができた。

「自分のせいじゃない」と認めることは、「逃げ」ではない

 私にとって大きな発見だったのは、先にも述べた「どんな親だったか」ではなく「自分が親に対して何を感じたか」が重要、という点だ。

 というのも、私は決して両親と不仲というわけではなかったのだ。家族のために必死で働いてくれているのも理解していた。

 けれどだからこそ、親にひどいことをされたわけではない自分が、子どもの頃の経験のせいで「生きづらさ」を抱えているのはおかしいのではないか、と考えていた。

 しかし、本書を読んで、子どもの頃の何が、現在の自分に影響しているのかを整理することは、決して「親を責めること」とはかぎらないのだと知ることができた。

もしも今、あなたが何かが気になりすぎて困っているのだとしたら、気になりすぎたときに何を感じ、どう行動しているのかを振り返ってみてください。(中略)
気になりすぎてしまうことが実は、子どもの頃に親に対して気をつけていたことだと分かれば、大人になった今はもう、そこまで気にしなくていいと、自分で自分に許可を出してあげられます。(P.38)

 他人のためについがんばりすぎてしまう、周りの人の不機嫌が、全部自分のせいであるような気がしてくる……。そんな人は一度、自分の心のクセを見直してみよう。

 過去の経験に「原因」を見出すことは、決して「逃げ」ではない。自分の心が弱いわけでもない。

 自分を責めすぎるのをやめる前にまずは、フラットな目線を手に入れよう。そのための第一歩として、本書のページをめくってみてはいかがだろうか。