人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【医学の新常識】意外と知らない鼻血の止め方…上を向くのも、ティッシュペーパーを丸めて詰め込むのもNG。それでは正しい止め方は?Photo: Adobe Stock

鼻血はどこから出るのか?

 鼻血が出たとき、まず行うべきは「圧迫」である。出血は、血管を圧迫することで止まるからだ。

 だが、鼻のどの部分を圧迫するのが効果的かを知らない人は多い。

 何となく鼻の奥のほうから出ていると錯覚し、鼻の穴の上流、すなわち鼻の上の硬い部分(鼻骨)を圧迫して失敗するケースは少なくないのだ。

 実は、鼻血の九〇パーセントは「鼻の穴から入ってすぐのところ」から出る(1)。この部位を「キーゼルバッハ部位」と呼ぶ。毛細血管が豊富で、出血しやすいエリアだ。

「鼻翼」を圧迫する

 したがって、鼻血が出たときに圧迫すべきなのは鼻の入り口、すなわち丸く膨らんだ柔らかい「鼻翼」と呼ばれる部分である。

 ここを親指と人差し指でしっかり押さえ、五~十分は離さない。これで止まらなければ、圧迫を繰り返す。

 ほとんどのケースは、これで止血できる。

 逆に、鼻血が止まらないケースの多くは、圧迫する時間が短すぎるか、圧迫する部位を間違えているか、である。

 ただし、二十~三十分、正しい場所を圧迫しても止まらない場合は、医療機関を受診するのが良いだろう(2)。

自分の鼻の穴を覗き込むことはできない

「鼻の中の空間がどのような構造か」を正確に理解するのは意外と難しい。

 人体の中でも「自分の顔」だけは直接見ることができず、まして自分の鼻の穴を覗き込むことは決してできないからだ。

 手足のどこかから出血したときに、血の出どころを見つけるのは難しくない。だが鼻の中の出血となると、「どこから出ているのか」を知ることすら一苦労なのである。

血液を飲み込むと頭痛や吐き気

 ちなみに、鼻血が出たときに上を向いて止まるのを待つ人がいるが、血液を飲み込むリスクがあるため推奨できない。血液を飲み込むと、吐き気や頭痛の原因になるからだ。

 また、ティッシュペーパーを丸めて詰め込む人もいるが、圧迫が不十分なため、止血には効果的ではない。 やはり、出血したときにもっとも重要なのは圧迫止血だ。これは鼻血に限らず、あらゆる出血について当てはまる原則である。

 私たち外科医が手術中、不意の出血に遭遇したときも、まず行うのは「圧迫」である。

 もしあなたが、けがをして激しい出血に見舞われたとき、試みるべき応急処置は、やはり出血点の圧迫である。

【参考文献】
(1)“Acute epistaxis. How to spot the source and stop the flow” Alvi A, Joyner-Triplett N. Postgrad med. 1996;99:83-90,94-6.
(2)『医者が教える正しい病院のかかり方』(山本健人著、幻冬舎新書、二〇一九)

(本原稿は、山本健人著すばらしい医学からの抜粋です)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に18万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。
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公式サイト https://keiyouwhite.com