「危機」に直面する自衛隊内部、メディアへの不満は他よりたまる

 ご存じのように自衛隊は今、「静かな危機」に直面している。TBSドラマ「VIVANT」が人気でお笑い芸人たちが「お前、別班だろ」なんて冗談を言い合うほど、架空の世界では人気や知名度が上がっているが、いざ入隊を志願する人は減少傾向が続いていて、「定員割れ」が続いている。(参考:『<独自>任期制自衛官、採用達成率過去最低に』産経新聞、23年3月26日)

 産経新聞によれば、防衛省が23年春に採用する任期制の「自衛官候補生」が採用計画数を大幅に下回り、現行制度となった平成21年度以降、達成率が過去最低の6割程度だったという。自衛隊の応募者数は過去10年間で約26%も減少しているという。

「人手不足」になると現場の負担が重くなって、さまざまなトラブルが表面化するというのは、あらゆる業界・組織に共通している現象だ。その中でも代表的なものが、「心を壊す人の増加」だ。

 2023年版防衛白書によれば、22年度の自衛隊員の自殺者数は79人に上り、前年度比で約1.4倍に増えている。そのため、今回の岐阜の射殺事件も何かしらのハラスメントやメンタルヘルスの問題があったのではないかという報道が相次いでいたのだ。

 筆者の経験では、こういうさまざまな問題を外部から指摘されている組織の内部では「メディアへの強い憎悪」が広まる傾向がある。組織内部の構成員からすれば、たださえ内部では、人が足りない、コンプライアンスだ何だと口うるさく言われて疲弊しているところに、外部のメディアに偉そうに批判されたらカチンとくるのは当然だろう。

 しかも、そんな時に明らかに自分たちの組織をおとしめようとする「意図」が強く感じられるような「偏向報道」があったらどうか。例えば、軍事訓練中の事故で、市民よりも先に手術を受けるなんてありえない、なんて感じのあまりに露骨な「偏向報道」が出たら――。

「マスゴミ、ふざけるなよ」という怒りの炎がメラメラと燃え上がるのではないか。ただ、そうは言っても、普通の自衛官はネットやSNSでマスゴミの悪口をふれまわるくらいだ。しかし、守山駐屯地の人々はそれではおさまらない。「仲間の死」で大騒ぎしてきた連中に追いかけ回されて、射撃訓練場で待ち構えられたら、反射的に中指を立てるくらいのことをしてしまう者もいるだろう。

 もちろん、これはちっともほめられた行動ではない。しかし、自衛隊員だから、という理由だけでわざわざ「悪いニュース」として社会に広く伝えなくてはいけないことなのか。

 これまで述べたように、人が亡くなった事件・事故の関係者が、つきまとうマスコミに「敵意」を向けるのは普遍的な現象だ。先ほどの清谷氏の言葉を借りれば、「なぜこんなもん記事にするんですかね」という言葉に尽きる不可解な報道だと言わざるをえない。