マスコミ自身の都合の悪い部分はだんまりなのに…

 筆者が週刊誌記者だった25年前、大事件で犯人が移送される車を撮影しようとしたり、事件現場の規制線のあたりでカメラを構えていると、よくガラの悪い警察官から「消えろ、カス!」「邪魔だ、ひき殺すぞ」などと怒鳴られたものだ。筆者だけではなく、新聞記者やワイドショーのレポーターたちも一緒だ。

 しかし、「警察官が報道陣に対して暴言を吐きました」なんてニュースになることは滅多にない。地元の新聞記者やテレビ局は「記者クラブ」で警察とズブズブなので揉め事なんか起こしたくないということもあるが、何より新聞も週刊誌もワイドショーも「自分たちがののしられるようなことをしている」という自覚というか、後ろめたさがあったからだ。

 だが、今のマスコミはそういう意識はないようだ。「報道陣に中指を立てました」とあたかも、自分たちがののしられるようなことを何もしていないという感じで報道した。

 しかし、現実には先ほども紹介したように、6月14日の銃撃事件から、印象操作のような偏向報道をしている。自分たちがやってきたことを伏せて、自衛隊の不祥事だけを取り上げる。しかも、「マスコミへの敵意」という、この手の現場ではさして珍しくはないことにスポットを当てた。これはどう考えてもフェアな報道ではない。

 こういう「偏向報道」はさらなる憎悪の連鎖になるものだ。実際、これを報じた東海テレビではすぐさま住民にマイクを向け、「教育し直してほしい」というコメントを引き出した。

《隊員が“カメラに中指”で住民怒り…3人死傷後初めて訓練再開した陸自射撃場 広報「隊員は指差し確認だと」》(東海テレビ)

 中指を立てられたのは自分たちなのに、いつの間にやら、「訓練再開に反対している住民」に対して中指を立てているような構図にすり替えて、住民と自衛隊の対立をあおっている。

 日本人はこの手の話に疎いが、これは国家間の紛争などで自国の戦意高揚をさせる典型的なプロパガンダだ。

 これから自衛隊は少子高齢化によって、深刻な兵力不足に陥る。国防だけは「外国人労働者の受け入れ拡大」では解決ができないからだ。そして、そんな自衛隊の疲弊に追い討ちをかけるのが、一部マスコミの「偏向報道」だ。プロパガンダの世界では、テレビは人の行動に影響を与えると言われる。つまり、今回のように「自衛隊ってヤバい人が多い」というニュースを流せば流すほど、若い人たちの自衛隊応募者数も激減していくということだ。

 そろそろマスコミの「偏向」をチェックする仕組みを本腰入れて作らないと、日本の「国防」は内側から崩壊してしまうのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
22段落目:清谷新一氏→清谷信一氏
(2023年11月9日10:28 ダイヤモンド編集部)