その遺志と醸造を引き継いだのが、和田茂樹さんだ。沖縄県生まれで、ノーベル賞候補の遠藤章教授に憧れ、東京農工大学発酵学研究室に進学。同級生だった多聞さんの一人娘、弥寿子さんが飲ませてくれた「あら玉」で日本酒のおいしさに開眼する。大学院で農学博士を取得し、「満足するまで、勉強してから」結婚、婿入りし、杜氏になった。「酒造りは毎年1年生」と茂樹さん。実験室と違い、環境と米の質が毎年変わり苦戦する。「無菌室も高温高圧滅菌もない時代に、雑菌が入り込めない環境を構築した先人の技術に驚きます」と、寒造り技術をリスペクト。真冬の河北町は外気温-12℃、蔵内-1℃になる酒造りの好適地だが、「19年たっても寒さに慣れません」と苦笑い。

新日本酒紀行「あら玉」あら玉 特別純米 改良信交
●和田酒造・山形県西村山郡河北町谷地甲17●代表銘柄:あら玉、月山丸、啓翁桜、谷地男、玉彦、鬼王丸●杜氏:和田茂樹●主要な米の品種:改良信交、雪女神、出羽燦々、出羽の里、山田錦
新日本酒紀行「あら玉」煙突 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「あら玉」蔵入り口 Photo by Yohko Yamamoto