2000年代前半、団塊の世代の
既得権に触れる主張はタブーだった

 しかし当然、若い世代は20年も待っていられませんよね。日本社会の人口構成を考えれば「高齢者に押しつぶされるのではないか」「自分たちは年金をもらえない」という恐怖感を持つのは自然なことです。そんなときは「年金がゼロになることはない。3割くらい減るかもしれないが、その分は自分で用意しておけばよい」と説明していますが、それでもやはり若者の不安は収まりません。

 人口減と高齢化でも経済成長できるとはなかなかいえない中で、さまざまな矛盾が顕在化しています。保険料を納付せずに国民年金の給付が受けられる第3号被保険者はその典型で、自営業者や独身者、共働き世帯は、自分たちの保険料負担でなぜ専業主婦が優遇されるのか不満に思うでしょう。これに対して合理的な説明はできませんが、それでも既得権に阻まれて、やめることはできません。

橘 玲(Akira Tachibana)●作家橘 玲(Akira Tachibana)●作家
たちばな・あきら/2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)などがある。 illustration by Takuya Nagano

 こういった不条理ともいえる日本の現状を見ながら、若い世代は「自分たちは社会に搾取され、差別されている」という被害者意識を募らせています。

――橘さんは2000年代前半から、将来の人口構成を考えれば「これまでの人生設計は破綻する」と警鐘を鳴らしていました。当時は反発が強かったそうですが。

 年功序列・終身雇用の日本的雇用慣行を批判すると、当時は中年だった団塊の世代からの反発はかなりありました。戦後の日本は良くも悪くも彼らが中心となってつくってきたので、「自分たちが社会の発展を支えてきた」という自負心は強く、その既得権に触れるような主張はタブーだったのです。

 ですが団塊の世代も70代半ばになり、最近は気力もないのか、昔のような批判はほとんどなくなりました。

>>(2)に続く

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