経済成長は「人口増」が大きく影響
それなのに……

 つまり、ロマン派の方を前に大変心苦しいが、「現実」を整理するとこういうことになる。

 日本は戦後、壊滅したインフラ復興と、第一次ベビーブームによる人口爆発が重なって順調に経済成長をしていた。そういう中で1964年には東京五輪、1970年には大阪万博が開催された。

 この手のイベントにおける経済効果は、建設バブル以外に大してなく、むしろバブルの反動で不況に陥ることが多いことがわかっている。詳しくは『「五輪不況」でボロボロのブラジル、日本も他人事ではない理由』の記事を読んでいただきたい。

 しかし、この時代の日本は、人口ボーナスの恩恵をモロに受けていたので、五輪不況や万博がもたらす経済的損失など簡単に吸収した。この現象を、まともに経済の分析をする人たちが見れば、「やっぱり経済には人口って大切だよね」という結論になるが、日本の場合、戦前の優生思想を引きずる誰かが、こんな「説」を言い始めてしまう。

「日本が奇跡の経済成長を果たすことができたのは、東京五輪と大阪万博をきっかけに、世界一勤勉で技術力のある日本人がひとつになることができたからだ」

 これがいかに荒唐無稽でご都合主義的なストーリーなのかということは、お隣の中国やインドを考えればよくわかる。中国のGDPはだいぶ昔に日本を抜き、現在「世界第2位の経済大国」だ。また、国際通貨基金(IMF)の予測によれば日本は26年にはインドにも抜かれるそうだ。

 では、このような話を聞いて、中国やインドが日本のGDPを抜いた理由を、以下のように考える日本人はいるだろうか。

「中国経済が日本経済を追い抜かしたのは、北京五輪と上海万博をきっかけに、中国人が日本人よりも勤勉になって技術力も上がったからだ」

 もし会社の同僚と飲みに行って、こんな自説を唱えたら首を傾げる人も多いはずだ。「いやいや、そんな抽象的な話じゃなくて、中国もインドも14億くらい人口がいるからだろ」とツッコミを入れる人もいるだろう。

 しかし、多くの日本人は自分の国の経済成長に対してはそんなツッコミを入れない。それどころか、半世紀以上も「常識」として受け入れてきた。政治家や財界人も当たり前のようにこのような考え方で、政策や経営をしている。挙げ句の果てには、学校の授業で、いたいけな子どもたちにまで、ツッコミどころ満載の考え方の刷り込みをしている。

 他国の経済成長は「人口増」によるものだと素直に受け入れることができる。それなのに、なぜか自分たちの経済成長だけは、「世界的イベント」「世界的企業」「世界的民度」という「特別な要因」が深く影響を与えていたという「神話」をつくりだしている。冷静に考えると、これはかなりヤバくないか?

 だからこそ、「大阪万博で日本を元気に」というような考え方からそろそろ卒業すべだというのが、筆者の考えだ。