「成長と分配の好循環の実現」という考え方の中には、NISAの抜本的拡充・恒久化のほか、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化などが含まれている。

では、政府が考えるスタートアップ・エコシステムの抜本的強化とは一体どういうものか。令和5年度税制改正大綱には、このような方針が示されている。

スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換し、持続可能な経済社会を実現する可能性を秘めている。そうした中、創業数と創業規模の両面でわが国のスタートアップの成長を促していくためには、「創業」、「事業展開」、「出口」の各段階を通じたインセンティブの充実が極めて重要である。

スタートアップ創出元年にふさわしく、スタートアップへの投資額の5年10倍増に向けて、スタートアップの加速や、既存企業とのオープンイノベーションの推進を通じ、わが国にスタートアップを生み育てるエコシステムを抜本的に強化する。

「創業」については、資金不足や金銭面の損失リスクが足かせとなっている現状を踏まえると、自らリスクを取って出資する創業者の行為を金銭面から力強く後押しするとともに、特に資金の集まりにくい創業初期のプレシード・シード期におけるエンジェル投資家からのスタートアップへの出資をこれまで以上に支援することが求められる。

このため、保有する株式を売却してスタートアップに再投資する場合の優遇税制を創設し、スタートアップへの資金供給を強化する。

具体的には、保有株式の譲渡益を元手に創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップに再投資を行った場合に、再投資分につき株式譲渡益に課税しない制度を創設する。その上限額については、米国のQSBSに係る株式譲渡益の非課税措置の規模(約13.5億円)を上回る20億円とする。この他、プレシード・シード期のスタートアップへの投資を一層呼び込むため、エンジェル税制の要件緩和も行う。

「事業展開」を後押しする観点からは、ストックオプション税制の権利行使期間の上限を、一定のスタートアップについて 10年から15年へと延長するなどの措置を講じる。

「出口」については、現在はIPOに偏重しているが、事業規模が未拡大の段階でIPOが行われ、その後に成長が鈍化する傾向にあるとの指摘がある。M&Aを促進することで、スタートアップが既存企業の資金や人材といった経営資源を活用できるようになり、その後の「事業展開」において、より力強い成長を実現することが期待される。

オープンイノベーション促進税制は、スタートアップへのニューマネー出資の一定額を所得から控除するという、極めて異例の措置として創設されたものであるが、今般、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化が最重要課題であることに鑑み、M&Aに適用できるよう、ニューマネーを伴わない既存株式の取得も対象とする。スタートアップの成長に真につながるよう、M&Aから5年以内に成長率や投資規模等の要件を満たした場合には、その後も減税メリットを継続させる仕組みとし、スタートアップの成長を強力に促すものとする。

引用元:令和5年度税制改正大綱

「スタートアップ・エコシステムの抜本的強化」に基づく、具体的な取り組み

「スタートアップ・エコシステムの抜本的強化」という方針に基づき、政府は具体的にどのような取り組みを展開していく予定なのだろうか? こちらも令和5年度税制改正大綱の中から読み解いてみよう。

1. エンジェル税制の見直し

個人投資家が株式売却で得た利益をスタートアップへの再投資や起業に使う場合、売却益のうち20億円までは投資額に相当する分を非課税とするというもの。これまで個人投資家がスタートアップ株式を手放す場合、売却益すべてに課税することになっていたが、今回の見直しにより、再投資分に関しては非課税にすることで継続的な投資を促す狙いがある。

なお、ここで定義されるスタートアップとは設立5年以内かつ設立後の各事業年度の営業損益金額がゼロ未満、つまり赤字状態にある企業のことを指す。また、特定の株主グループの保有株式の総数が発行済株式の総数の20分の19を超えていないことも条件に挙げられるなど、一定の制約が課せられる想定となっている。

2. ストックオプション税制の権利行使期間の上限を15年に延長

ストックオプションの行使期限を10年から「15年」に延長するというもの。なお、対象となるスタートアップは設立から5年未満の会社で、未上場の会社であることが条件として挙げられる。

ここ数年、ストックオプションの行使期限が10年だったことから、設立から10年のタイミングでダウンラウンドであっても強引にIPO(株式上場)に持っていくスタートアップも目立つようになっていた。だが、今回の行使期限の見直しによって、ダウンラウンドIPOやスモールIPOなどを回避できるようになることが見込まれる。

3. 暗号資産の評価方法の見直し

暗号資産の評価方法などについて、見直しが行われる。具体的には、「自分が発行した暗号資産で、発行時から継続して保有しているもの」「発行の時から継続して他の人に移転できないような技術的措置がとられており、一定の要件を満たす信託の信託財産としているもの」に関しては、時価評価により評価損益を計上するものから除外するという。

これまで暗号資産の法人期末課税については、たびたび議論に挙がっていたが、今回の見直しにより、特定の要件に該当する暗号資産に関しては時価評価によって評価損益を計上するものの範囲から除外されることとなった。