これがどのくらい重要なことなのか。半年育てた豚は、体重が96〜116キログラムの間に収まっていれば、1頭5万円ほどで売れる。ところがこの20キログラムに収まっていない豚は、4万2000円ほどに値が下がってしまうのだ。生産原価は現在では約4万8000円ほどかかるため、これでは確実に赤字になってしまう。

ところが、である。出荷時にこの20キログラムのレンジに入っている豚の割合は、平成から令和にかけての30年あまりの間、一度も50%を超えたことがないというのだ。

「(ABCの導入で)豚の体重がわかることで利益が出るというだけでなく、豚の状況に応じてエサや水、環境を整えることができるためエサの削減もでき、頭数を増やすこともできる、というところまで来ました」(神林氏)

2020年〜2021年には、農林水産省スマート農業実証プロジェクト「データ活用型スマート養豚モデルの実証」にPorkerが参加。導入費用年間36万円で売上高7980万円の向上をもたらすという実証結果を得ている。2022年〜2023年には引き続き農水省とともに、IoTとAIによる生産性やエサの改善効果を測定しているそうだ。

現在のPorkerの国内導入率は約10%。農水省との実証結果を踏まえて、タイやベトナムといった海外からの引き合いも増えた。タイ国農林水産省とのスマート農業プロジェクトやJETROのベトナムでのプロジェクトに参加するなど、海外展開も始めている。

「DX豚舎」から「肉を食べ続けられる世界」を目指す

経営クラウドのPorkerだけでなく、カメラやセンサー、AIといったプロダクトの布陣が一通りそろったことから、今後は豚の生産プラットフォームとして、世界へ展開していくところだと神林氏はいう。

短期的には野菜工場の畜産版にあたる「DX豚舎」を展開することで、生産性や資源効率、持続可能性の向上を図っていく。また、長期的には「養豚を科学することで、エサを私たちの食品の残りかすに切り替えることや、糞尿をコントロールしてそこからバイオマス(生物由来資源)の生産をするといったことも考えていきたい」と神林氏は語る。

1月11日にはアニマルウェルフェア(家畜のストレスや苦痛を減らし、快適性に配慮すること)に対応した、繁殖豚の飼養管理を行うAI技術を発表した。この技術はAIカメラを母豚に特化させ、母豚が自由に動ける「フリーストール」飼いの環境でも個体識別や発情検知を可能とするものだ。

発情判定と個体識別を同時に実行
発情判定と個体識別を同時に実行 画像提供:Eco-Pork

「人間と同じく豚も妊娠期間中は結構センシティブです。そこで、これまではおりに入れて、1頭ずつ飼養管理をしなければなりませんでしたが、それはアニマルウェルフェアの観点からあまりよくないと世界的には言われるようになっています。ただ、日本では8割ぐらいは、狭い柵に1頭ずつ区切って飼う方法を採るしかありませんでした。そこで、母豚に特化した個体識別機能をつくったのです」(神林氏)