日本国内のコンバーティブルエクイティについては、Coral Capitalが投資契約書テンプレートの「J-KISS」(日本版Keep It Simple Security)をかなり普及させて、過去数年でも、理解がだいぶ広まった。ちなみに米国では「SAFE」(Simple Agreement for Future Equity)というY Combinatorが開発したひな形が最も一般的で、米国外にも広がりつつある。

起業家は、資金調達にあたって上記3つのツールキット「普通株」「優先株」「コンバーティブルエクイティ」を、目的に応じた前提とそれぞれのメリット・デメリットを理解して選ぶ必要がある。

成功のために押さえておきたいストックオプションの考え方

その他の重要なツールキットについても触れたい。ストックオプションは、スタートアップの報酬制度として欠かすことはできないが、日本ではまだ欧米に比べて十分使いこなせているとは言えない。このツールキットの機能が日本と米国で異なる、という背景もあるし、大きな金銭報酬に対するスティグマ(偏見)という文化面の障害もある。ただ、機能も文化も転換期にあって、この先数年で日本でもストックオプションの使い勝手やイメージも大きく変わってくるのではないかと思っている。

アーリーステージのスタートアップの成功にとって優秀な人材が鍵となることは言うまでもない。大企業と違ってスタートアップの仕事には、決まったジョブディスクリプションはあってないようなもので、チームメンバーが自分の専門分野や得意分野を超えたあらゆる仕事をこなさないといけない。つまりチームメンバーには起業家と非常に近いマインドセットやインセンティブを持ってもらう必要があり、そのためにストックオプションが非常に効果的であることが、各国で証明されてきた。

金のために働きたくない、金目当ての人を社員にしたくない、という心情はいずれも正当であり、ストックオプションをスタートアップで働く動機の主軸に置くのは、雇う側・雇われる側のいずれにとっても理想ではない。一方で、優秀な人材が大企業の安定した待遇を捨てて、20代・30代の大事なライフイベントと並行して長期的に起業家と肩を並べて働き続けるためには、金銭的インセンティブは欠かせないものであることを、起業家自身もよく理解する必要がある。この事実は、入社時のマインドセットには関係ない。

そして、エコシステムが発展していく過程で(自分の回りにストックオプションの受益者が増えていくと)、十分な量のストックオプションを社員に用意できることが、採用の競争力に直結してくると断言できる。