東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授 伊藤恵理

舩井:エアライン側からすると、約200ポンドという数字はとても大きいものです。現状の運用手段では燃料消費をこれだけ削減できる方法は他にないかもしれません。当然ですが、航空機は飛んでいる時間が長ければ長いほど、燃料を使います。ほぼ推進力を抑えて降下してくるのは相当な削減効果がありますね。

伊藤:今後20年で航空需要が2倍以上に増えるという試算がある中で、どれだけ航空機の燃料消費を減らせるのかは、業界の脱炭素化における喫緊の課題です。航空機は、降下段階のときにアイドル状態に近いかたちで滑空するのが最も燃費(燃料消費率)がいい。しかし、それが実現できないのは航空機単体の動きが地上の管制官から読みにくいためです。複数機が複雑に飛行している状態でそんなことをするのは、非常に危険なのです。

脱炭素と管制運用の安全性を両立するために考えられたのが、今回のFPA降下です。管制官が予測しやすい高度のプロファイルを提供し、かつ準最適な燃料削減も実現できる。さらに、今使っている機材を改修することなく運用できます。FPA降下は、安全性と燃料消費の削減効果による環境負荷の低減、経済性の3つを実現できる運航手法なのです。

チャンスを生かし、航空業界が求める究極の最適化へ

——航空業界の脱炭素化をスピードアップさせるために、スタートアップの存在は欠かせないものだと思います。今後、どのようなバックアップがあるとよいですか。

田中:今回のようなチャレンジの機会をもらえることが、私たちはすごくうれしいですね。スタートアップはビジョンをもとに努力をしていますので、顧客候補となる方々や研究の世界からのフィードバックが何よりも宝になります。そもそも何もないところから始まるスタートアップと付き合ってもらうために、協業の敷居を下げられるような環境を作ってもらえるとありがたい。端的に言えば、大手企業がスタートアップと協業すると減税があったりすると、社内で話が通りやすくなるのではないかと思います。

舩井:本当にそうですよね。一度環境を壊してしまうと、修復するのに手間もコストもかかると考えるなら、自治体は何年か先に恐らく大きなコストを払うことになると思うのです。サステナビリティへの取り組みに関しては、費用対効果で考えても間違いなく価値があるでしょう。後で払うよりも今払った方がいい。環境に関するスタートアップを育成していくのは必要なことだと感じます。

Peach Aviation オペレーション統括本部長 舩井康伸氏

田中:スタートアップにとって、出資は当然ありがたいです。もう一方で、チャンスをもらえることも、とてもうれしいです。今回は2人のおかげで実績を作る機会を得ることができました。どんなスタートアップも、単体で生き残れることはほとんどありません。大手企業といかに協業できるか、そこにどうやって売り込んでいくか、最初の一歩をどうやって作り出すかも含めて、行政にうまくサポートしてもらえる仕組みがあるとうれしいです。