「当然ながら、著者の先生は教材に掲載する問題を1つ1つ厳選し、出題の順番や章立ても工夫をされています。出版社の方々もその背景を知っているので、『それを切り貼りして、AIでレコメンドするのはどうなのか』という意見もいただきました。また出版社としては、abceedで多少の反響があったとしても、紙の書籍の売上が一気に減ってしまっては元も子もありません。そういったところを時間をかけて丁寧に説明しつつ『何か起きたらいつでも停止できる』といったセーフティネットを作りながら、交渉していきました」(幾嶋氏)

現在abceedでは200タイトル以上の教材が使い放題の対象となっているが、当初は20〜30タイトルからのスタート。その中から「紙も売れるし、デジタルも収益化できる」という成功事例が生まれたことで、教材の数が少しずつ増えていった。

またビジネスとしてのインパクトも大きかったという。「(UnlimitedプランとAI機能によって)一気に売上が1.5〜2倍まで爆発的に増え、LTV(顧客生涯価値)に関しても、単品で販売していた頃に比べて5倍以上に伸びた」そうだ。

「教材が使い放題になったから伸びたかというと、そんなことは全くなかったです。(ユーザーは)教材を何十冊も使いたいわけではなくて、自分にあった問題が出てくることが価値のポイント。データベースの中から最適な問題がレコメンドされる、超パーソナライズ教材を提供できるようになったことが成長のエンジンになりました」(幾嶋氏)

AIを用いたリアルタイムスコア予測
abceedでは問題のレコメンドだけでなく、スコアの予測機能でもAIを活用。過去の学習データなどから、リアルタイムでTOEIC公開テストの予測スコアを算出している

紙が支持される英語教材、「DX」で変革

abceedが特徴的なのは、やはり自社でオリジナルのコンテンツを開発しているのではなく、あくまで既存の教材をうまくデジタル化して提供していることだろう。

多くの出版社はabceedと組む以前からKindleでの販売など電子化には取り組んでいたが、漫画やビジネス書などとは異なり、英語教材に関しては「(ユーザーからは)圧倒的に紙が支持されていた」(幾嶋氏)という。

「英語教材の場合は実際に発音や音声を聞いたり、単語の意味を辞書で調べたりさまざまな機能が求められます。そのため『単純に内容が電子化されただけ』では、あまり電子版を買うメリットがありませんでした」(幾嶋氏)

そこでabceedが取ったのは、言わば「既存の英語教材をDX」するようなアプローチだ。自動採点マークシートから始まり、音声再生や発音採点、文法チェック、辞書などアプリで英語を学習する際に必要な機能を実装した上で教材を提供してきた。