日本のSaaS市場は現在どうなっているのか。そして今後どうなっていくのか。ALL STAR SAAS FUNDマネージングパートナーの前田ヒロ氏にSaaSの現状と展望を聞いた。
新型コロナの影響でSaaS業界自体も顧客接点をオンラインへシフト
まずは新型コロナウイルスのSaaS市場への影響についてだ。コロナ禍をきっかけに業務のリモート化、デジタルシフトでSaaS導入を決めた企業も多かったのではないかと感じるが、前田氏はどのように受け止めたのか。
「3月下旬、感染拡大が本格化した最初のころはメチャクチャ“カオス”な状況で、新型コロナが業界にどんな変革をもたらし、経営にどう影響するのか、みんな分かりませんでした。それからひと月ほどたち、4月中旬から下旬ぐらいになって、ようやく傾向が見えてきた気がします」(前田氏)
前田氏の言う「傾向」とは、SaaS企業にとっての顧客接点のオンライン化だ。いかにSaaSスタートアップとはいえ、これまでは企業向けにサービスを提供する以上、営業活動は対面で行う企業が多かった。これが4月下旬ごろからオンラインに切り替わっていったという。またマーケティング活動で重視されてきた展示会やイベントも、ウェビナーやメールマーケティングに置き換わった。
「僕たちは20社以上のSaaSスタートアップに投資していますが、タッチポイントのオンライン化については1社だけのことではなく、SaaS業界全体でやり方が確立したと感じています」(前田氏)
一方で、ひとくちにSaaS業界と言っても「新型コロナのインパクトは均等ではなかった」と前田氏は振り返る。「コロナが追い風となったのは、オンライン完結型のサービスです」と前田氏はいう。ALL STAR SAAS FUNDの出資先では、AIチャットボットをSaaS型で提供するカラクリ、SmartHR、製造業の受発注業務クラウドを提供するA1Aなどが、コロナ禍にあっても業績好調だった企業だ。
向かい風を受けることになったのは、顧客企業にリアルの接点が不可欠なビジネスだった。「飲食業やサービス業向けの採用支援SaaSなどは、マイナスにこそなっていませんが、ほかと比べると業績の伸びが鈍化しました。お客様を支えるのがSaaS企業の宿命なので、仕方のないところではあります」(前田氏)
とはいえ、既存導入先各社のSaaSへのログイン回数などの数字は総じて上昇したそうだ。前田氏は「みんなが思っていた以上に、SaaSを積極的に活用していたことにはビックリしました」と感想を述べている。