「また企業側のSaaSの使い方も変わりました。経営上の優先事項が事業の継続やコストカットに向かったので、ここに刺さるSaaSは強かったです」(前田氏)
コミュニケーションツール、特にビデオ会議サービスZoomの躍進については「彼ら自身も想定外だっただろう」と前田氏。従来はウェブ会議やオンラインカンファレンス開催機能などが収益源だったZoomだが、コロナ禍でブレーンストーミングや“Zoom飲み”など、思ってもいなかった使い方が広がったと前田氏は指摘する。
Zoomは米国時間の10月14日、SlackやDropboxといった他社製アプリとの連携を発表している。前田氏はこれについて「非常にスピーディーな対応」と評価する。「今、ユーザーがZoomを通して実現したいことをしやすくするための連携であり、API公開だったと思います」(前田氏)
「いつかやる」から「待ったなし」となったDXを支えるSaaS
企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、コロナ以前からトレンドとして存在はしていたが、これは2019年4月からの働き方改革関連法施行による生産性向上のニーズによるところが大きかった。ところが今となっては、DXが「いつか対応できればいい」ことではなく、「一刻の猶予もなくやらざるを得ない」ことへ繰り上がったのではないかと思える。
企業のDXに今、SaaSが与えている影響について、前田氏は次のように述べている。
「分かりやすい影響として、今までオフラインで顧客との接点を持っていた企業がオンラインで完結させようとしているということがあります。(Eコマースプラットフォームの)BASEが今、伸びている理由は、オフラインではなくオンラインで商品を販売していこうという動きがあるからです。また、サポートやサービス業でもできる限り非対面で業務を進めようという傾向があります」(前田氏)
店舗ありきの業態など、リアルで完結するサービスにおいても業務の見直しは進んだという。
「僕たちの投資先でフィットネス業界向けSaaS『hacomono(ハコモノ)』を提供する、まちいろという企業があります。このhacomonoでも、顧客とのさまざまなタッチポイントを可能な限り非対面にしようとしています。決済やチェックイン、インストラクターや部屋の予約といった手続きは、今までフィットネスジムの窓口で対面で調整するものでした。これらがオンラインで完結して、顧客はジムへ出かけたら好きなプログラムをこなし、終わったらそのまま帰ればよい、という形に変わっています」(前田氏)