「自分の人生をコントロールする方法を教えましょう」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
「ジンクスの魔法」を使う
感情を引き起こすキッカケを日々の数字によって把握することで、自分の感情を乱す犯人が見つかります。
しかし、そんなキッカケによって自動的に私たちの感情がコントロールされてしまうのであれば、どうやってそれを克服してラクに生きられるようになるのでしょうか。
答えは単純です。
通常のプロセスを逆転させればいいのです。
つまり、
「行動」→「感情」→「(自動)思考」→「認知」→「現実での出来事やイベント」
という順番で、感情をコントロールできるように変化させます。
その方法を述べていきましょう。
「自分で人生を切り開いている」という感覚
あなたは「ジンクス」という言葉を聞いたことがありますか。
「黒猫が目の前を通ると災難が起こる」
「4や13は不吉な数字だ」
など、科学的な根拠は存在しないにもかかわらず、なんとなく信じてしまっているような迷信のことです。
一般的な迷信だけに限らず、人によってオリジナルなジンクスもあるでしょう。
「あのゴミ箱に一発でゴミが入れば、今日のプレゼンはうまくいく」
「試合の日には必ずカツカレーを食べる」
「受験でいい点を取れるようにキットカットを持っていく」
といったゲン担ぎも同じようなものです。
そんなことをしても、必ずしもプレゼンがうまくいったり、テストの点が良くなったりしないことは、頭で考えるとわかるはずです。
しかし、私たちは、ゲン担ぎをしたほうが、「なんとなくうまくいくような気がする」と、根拠のない自信を感じ、その勢いで成功するようなことも起きるのです。
それは人間が、「自分で選択して行動したほうが、きっといい結果を生む」という一種のエゴイズムを持っているからです。
運のように、論理的にはどう頑張っても変えられないような概念的なものでも、「自分で行動することでコントロールすることができる」という錯覚を人間は感じるのです。
ハーバード大学のある研究では、当選番号がわかるだけの宝くじよりも、自分で数字を選ぶ「ひと手間」を加えた宝くじのほうが、「なんとなく当たる気がする」という人間の性質があることを明らかにしました。
たとえ偶然であっても、人は「自分で人生を切り開いている」という感覚に、無類の幸福感を感じるのです。
そういった思い込みのことを、心理学的には「コントロールの錯覚」と呼びます。
「現実を見すぎないこと」が大事
この錯覚は、あなたの人生にも大きな影響を与えています。
ガチャのように、「あなたの人生はもともと決まっていて、何をやってもムダですよ」と決めつけられると、反発する気持ちが出てくるでしょう。
「自分の人生は自分で決められる」と、人生を自分でコントロールしている錯覚を感じることによって、私たちは生きるためのモチベーションを保っているのです。
「明日はきっといい日になる」
そんな根拠のない自信を持つことで、人は前向きに生きることができるのです。
だから、コントロールの錯覚を「理性的な私」によって逆手にとり、生きるモチベーションを持つことにしましょう。
そうやって生きるために必要なコントロールの錯覚のことを、私たちは「希望」と呼びます。
矛盾した言い方に聞こえるかもしれませんが、現実を見ないようにしている人ほど、大きな希望を持つことができるのです。
ある研究によれば、うつ病の人ほど、「人生は自分の思い通りにできない」と強く意識してしまっていることがわかっています。
生きるに値しないと考えている人ほど、コントロールの錯覚を抱きにくく、現実をよりリアルに直視しています。
だからこそ、希望という幻想が抱けないのです。
「どうせやってもムダだ」
「そんなことに意味はない」
「自分にはできるはずがない」
将来の夢やヴィジョンを語るとき、そんな考え方のクセが感情に先行して、錯覚が起こらないようになっています。
だから、「楽しい」「嬉しい」といった感情が湧きあがりません。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。