「自分を変えるための方法があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
1日の半分は「頭を使っていない」
さて、あなたはスマホを使うとき、最初にSNSを見るクセがあるかもしれません。
そういう人は別にスマホやSNSに依存しているわけではないけど、無意識のうちに「スマホを見る」と「SNSを見る」がリンクしてしまっているはずです。
このような反復行動による動作のひも付けを「習慣化」と呼びます。
私たち人間は、他の動物に比べて頭がよくなるように進化してきました。複雑な数式を解いたり、素晴らしい文章を創作することは他の動物にはできません。
そんな頭のいいはずの人間ですが、じつは日常生活の中ではほとんど頭を使っておらず、生活の大部分が「習慣化による行動」で自動的におこなわれているということがわかっています。
デューク大学の研究によると、人がおこなう動作の45%は、毎日同じ場所でおこなわれている傾向があるそうです。
つまり、人が生活している時間の約半分は習慣化されて、頭を使うことなく、日々を送っているのです。
たぶんこれを聞いてあなたは、「仕事(あるいは学校)だからしょうがないのでは?」と思ったかもしれません。
では、休日はどうでしょう。
休日ごとに毎回新しいことに挑戦している人は、そんなに多くないはずです。
これにもちゃんと理由があって、人間は「思考のひも付け」によって業務を効率化しているからです。
「ひも付け」のすごい力
「朝起きて、テレビをつけて、スマホを見ながら、朝ごはんの支度をし、歯磨きをし、身だしなみを整え、時間になったら出社する」
この一連の動作は、どれか1つをとっても、かなり複雑な作業として脳は機能しています。
しかし、無意識にそれを繰り返し、練習することで、いずれの習慣も身についていきました。
「身につく」という感覚がとても大切で、人間は一度身につけてしまえば、複雑な工程が必要なことでも考えずにおこなえるようになります。
脳のなかで複雑な行動を「1つのかたまり」として処理できるようになると、1つの「習慣」として脳に保存することができるのです。
たとえるなら、習慣化とは、「パソコンにダウンロードしたテキストを、1つのフォルダに保存して圧縮ファイルに変える」というようなプロセスです。
このような情報のひも付けと圧縮のことを、「チャンキング」と言います。
たとえば、受験勉強で暗記するときに、語呂合わせで覚えたことがないでしょうか。
「すい(H)へー(He)りー(Li)べー(Be)ぼ(B)く(C)の(N)(O)ふ(F)ね(Ne)」
「鳴くよ(794年)うぐいす平安京」
などです。
ただの数字や英字の羅列に比べると、語呂合わせのほうが格段に覚えやすくなりますよね。
語呂合わせでも、チャンキングというプロセスによって情報の圧縮が起こり、脳の容量が節約されて忘れにくくなっています。
こうした「ひも付け」には3つの大きな効果があります。
● 記憶に残り、忘れにくくなる
● 人に伝えやすくなる
● 感情をコントロールすることができる
という効果です。
チャンキングは人間が成長し、進歩するためにとても大きな影響を与えてきたのです。
3つ目の「感情をコントロールすることができる」だけ補足しておきましょう。
たとえば、神社にお参りをすると、「ご縁がありますように」と、五円玉を投げ入れることが多いでしょう。
あるいは、車のナンバープレートや結婚記念日を「11-22(いい夫婦)」にしたりします。
こうした、気持ちの変化にも、「ひも付け」が関わっています。
たとえば、「トイレ掃除」で考えるならば、
「トイレ掃除」=「成功」
ということをジンクスにして繰り返し行動することによって、不安や恐怖の感情を抑え込み、成功への期待値を高めています。
すなわち、「ジンクス」による影響を習慣にすることで、脳で「ひも付け」が起こり、思考と感情のバランスが整い、心の底からハラ落ちする感覚が起こるのです。
「ジンクス」×「ひも付け」=「ハラ落ち」
これこそが、自分を変えるための方程式なのです。
この方程式は、人生を変えてしまうほどの影響力を持っています。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。