「恋愛上手になる方法があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

「彼にすぐ冷めちゃいます」→精神科医が教える“恋愛上手になる方法”とは?Photo: Adobe Stock

自分でもあきれるくらい極端な性格

 私の知り合いに、恋愛下手なアキさん(仮名)がいます。

 アキさんは、自分でもあきれるくらい極端な考えの持ち主でした。
 いわゆる「恋愛体質」で、優しくしてもらうと、

「その人のためならなんでもしたい!」

 と、過激なアプローチをしてしまいます。
 それが恋人へと発展するのはいいのですが、あるとき彼氏が自分にとって気に入らないことをすると、途端にドミノが倒れるように、「嫌い」へと転換してしまうのです。

 自分からアプローチをしているときはあんなに幸せいっぱいなのに、急に「冷める」ので、それが原因で破局するということを繰り返していました。

 やがて婚期が遅れ、実家へと戻ったタイミングで、
「このままではいけない」
 と、私のもとへと相談をしにきたのです。

 アキさんは次のように話しました。

「昨日までは彼のことが大好きだったのに、連絡の行き違いがきっかけで嫌な気持ちが溢れてきて、今日は彼のことをシカトしてしまいました。過去には、勝手に彼の持ち物を処分してしまったときもありました……」

 アキさんは、そんな自分の悪い面を「性格のせい」と考えていました。
 だから、「こんな私だからどうしようもない」と、諦めていたのです。

「冷めちゃう私」を変えるには?

 私がアキさんに話したことは、自分を変えることができるということ。
 そして、「自動思考に気づく」ということです。

 私から見ると、アキさんの性格は人当たりがよくて、誰でも好印象を持つようなタイプです。だから、自分で性格のせいにして諦めることは可能性を狭めてしまうだけに思えたのです。

 早速、取り組んでもらったのが、「ハラ落ちまでの4つのステップ」です。
 まずは、ステップ1として自分の目標とする姿を一緒に妄想しました。

「朝起きて、朝食を作っているうちに彼氏も起きてきて、おはようのキスをしたい」
「ゆったりした音楽をかけて、ボーッと外の景色を見ながら朝食をとりたい」
「夜は一緒に夕食を作って、家事は分担して、子どもを寝かしつけて、人並みだけど幸せなことを実感しながら寝たい」……

 と、理想の生活を思い描いてくれました。
 ここでつまずく人も多い中で、アキさんは理想を語ることは得意のようでした。

自分を見つめる方法

 次に取り組むのが、「数字で書き出す観察」です。
 前に別れた彼との関係について、振り返ってもらいました。

「イライラしたのは、いつ、どこでなのか」
「それがこれまで何回くらいあったのか」
「そのときにキッカケとなった出来事は何だったのか」

 すると、アキさんが冷めるきっかけになったのは、明らかに「同棲を始めたタイミング」だということがわかりました。
 その瞬間によく「メンヘラっぽくなっていた」のです。

 そもそも同棲をしたいと切り出したのはアキさんからだと言います。
 同棲するようになると、彼のプライベートな面がよりハッキリ見えるようになりました。

 それまでは見ないようにしていた彼の嫌なクセや合わない価値観のことが、どうしても許せなくなってくるのです。

 その結果、先ほどの理想からかけ離れたことになり、将来が思い描けずに「冷める」ということになっていた。
 そのように、アキさんは自らの「感情的な自分」に気づくことができました。

 どうやら、同棲する前に、「相手の悪い面を見ないようにする」というクセがあったようです。
 そのせいで、後から一気にそれが見えるようになってしまい、極端に「嫌い」にまで振り切ってしまうのです。

 ただ、人は誰しも、いい面もあれば悪い面もあります。
 あのマハトマ・ガンディーも「ダメな夫だった」と、妻のカストゥルバ・ガンディーが後に漏らしています。

 そんな「人には悪い面もあって当たり前」ということが、頭では理解できていても、心では納得できず、アキさんは彼のことを理想の相手としてだけ見てしまう。

 うまくいくカップルであれば、
「そういう悪い面もあるか」
 と、その場で受け止めることができたり、付き合いはじめのときから指摘しあったりすることができます。

 それが、アキさんの場合は、すべて溜め込んだ後なので、極端な行動になってしまうのです。

 そうして、同棲をする前のタイミングから、彼の悪い面も見るようにしないといけないことに気づいたのです。

どんな習慣を作ったのか

 そして、ステップ3は、「ジンクスづくり」です。

「彼と同棲をしないと『寂しい』という気持ちが解消できない……」

 そのように語るアキさんに、「寂しくなったとき」におこなうジンクスを考えてもらいました。
 アキさんが作ったジンクスは、
「寂しくなったら、フリマアプリに物を出品する。もしくは、出品準備だけをする」
 ということに決めました。

「物を手放す瞬間に、気持ちよさを感じるんですよね」
 と、アキさんは言います。

 彼女はもともと、フリマでの出品や断捨離が好きだったので、寂しくなったときには、そのジンクスに取り組むことにしてもらいました。

 実際に、ジンクスをやってみると、寂しさが紛れる感覚をおぼえたと言います。
 一度それがうまくいくと、あとは「理性的な私」によって感情をコントロールして日々を送ることができます。

 ジンクスを取り入れることで、「彼が自分から離れてしまうかもしれない」という不安な気持ちも徐々に落ち着いてきたと語ってくれました。

 彼氏とすぐに同棲して距離を縮めようとする彼女の気持ちは、「相手を信じきれない」という不安感を表していたのかもしれません。

「いつか自分から離れるかもしれない」
「自分が捨てられるかもしれない」

 そんな焦りによって、関係性を早めていたのかもしれません。

 しかし、こうやってジンクスを取り入れて「寂しい」という「感情的な私」を乗りこなすことで、「彼氏と離れていても安心できる」という、「ハラ落ちする体験」へと至ることができたのです。

「二極型」への処方せん

 さて、以上が「二極型」のアキさんのケースでした。

 ちなみに、精神医学的には、「極端な考え方」は、愛情不足が原因で起こることが多いと考えられています。

 あなたの子どもの頃を思い出してください。極端な考え方をしていませんでしたか。

 普段は優しいお母さんが、あるときに「コラッ!」と声を荒げて叱っただけで、「大嫌いだ!」と、感情が抑えられなくなったときがあると思います。

 子どもは、人の評価がコロコロ変わりやすく、大人に比べて短絡的です。

● 怒らないママ → 味方だから好き
● 怒るママ   → 敵だから嫌い

 というように、2つの評価しか持っていないのです。

 ここから、長期的に愛情をしっかり与えられて育つと、次第に子どもは、
「怒るママも怒らないママも、どっちも大好きなママ」
 と、一人の人間の裏表をきちんと認識できるようになります。

 一方で、愛情が与えられずに育ってしまうと、
「ママは怒るから嫌いだ」
 という一面しか見ることができず、不信感が強まったまま成長してしまうのです。
 その後、あらゆる人間関係において「冷めやすい人」になりやすくなります。

 ネットを見渡すと、極端な考え方がエスカレートしている場面をよく見かけます。
「推しが結婚の報告をした途端、結婚相手を貶めるようなブログを書いてしまう」など、距離感を間違えてしまう厄介なオタク(厄介オタ)は、「二極型」になってしまっています。

 厄介オタの歴史は古く、有名な探偵小説「シャーロック・ホームズ」シリーズの中で、主人公のホームズが亡くなったときには、「ホームズを復活させろ」と原作者のアーサー・コナン・ドイルのもとに脅迫状が届いたそうです。

「自分の理想どおりでないと受け入れられない」という、厄介な感情は、昔から人々を悩ませてきたのです。

 最近よく聞くのが、
「友人が違う意見を持っているだけで、その人のすべてがイヤになった」
 というような声です。

 自分の中のルールが強すぎるせいで、周囲の人と衝突したり、先ほどの厄介オタのようになったりしてしまうのです。

 そんなときに振り返ってほしいのが、次の5つの考え方のクセです。

●「すべてが無か思考」:完璧主義で自分ルールのとおりにしか考えられない
●「一般化」:「ふつうはこうでしょ?」のふつうがズレてることに気づかない
●「心の読みすぎ」:根拠がないのに「こう思ってるに違いない」と決めつけすぎる
●「~すべき思考」:他人に対しても「~すべき」とすぐに考えてしまう
●「マイナス化思考」:いったん否定的な意見が生まれると修正できない

 こんな考えが自分にも当てはまっていないかどうか、考えてみてください。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。より一部を抜粋・編集したものです)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。