「やりたいことを見つける方法があります」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
自分らしさがわからない人
私の知り合いのモエさん(仮名)は、フラメンコの先生として活躍しています。
「自分らしさ」を発見することで生きやすさを手に入れた方です。
大学を卒業して一般企業に勤めたモエさんは、退屈な日常生活を送り、「このままでいいんだっけ?」と自問して、悶々としていたそうです。
「私らしさ」が見つからず、メンヘラっぽさを抱えていました。
そこで何かを変えたいと思い、さまざまな国へと海外旅行をするように決めました。
だからと言って、簡単に生きがいが見つかるわけではありません。
海外にいても、多くは日本での生活と同じように、心の中がグレーになる気分だったそうです。
「私らしさ」をどう見つける?
そんなあるとき、スペインの旅行中に感動する体験をします。
それが、生で見た「フラメンコ」でした。
美しいダンスに魅了されたのはもちろん、
「こうやって全身でしなやかな動きを体験してみたい」
という思いに取り憑かれたのです。
その後、日本に戻ってからも、その気持ちは消えません。
多くの人は、また日常生活に戻るかもしれませんが、モエさんは違いました。
スペイン語を学び始め、「フラメンコ留学」があることも調べ、そのためにお金を貯めて働くことにしました。
そして目標金額に達すると、会社を辞め、フラメンコの本場であるスペインのセビーリャに留学し、レッスンを受けることにしたのです。
そこまで思い切った行動に移せたのは、知識があったからではありません。
何かを変えたいと海外旅行をし、息づかいが聞こえてくるほど臨場感のある踊りを見たからこそ、感動体験をしたのです。
「フラメンコを踊っているとき、私らしさを感じることができる」
と、モエさんは無意識に「ハラ落ち体験」をすることができました。
「私らしさ」というものは、このように予期せぬ出会いによって見つかります。
「まず動いてみる」ということ
「私って何なんだろう?」
「このままでいいんだろうか……」
という「自己同一型」のメンヘラっぽさは、何か行動をして感動をしないと抜け出せないものなのです。
「フラメンコがいいんじゃない?」と他人から勧められたところで感動体験にはなりません。
モエさんの知らず知らずの行動によって、ジンクスの魔法がかけられたのです。
このように、「自分らしさ」だけは計画通りに簡単に見つかるわけではありません。
これまでのメンヘラの例のように、思いつくジンクスだけでは足りないのです。
過去の体験が重要になります。
経験ゼロからエピソードを語ることはできませんよね。
まずは何かをやってみることです。そのハードルを下げることによって、結果的に「自分らしさ」が見つかる近道になります。
その後、モエさんはフラメンコの先生の仕事を始めます。
そして、順調な人生を送ることができているそうです。
こう聞くと、「好きなことを本業にすると幸せだ」と思うかもしれません。
たしかに、モエさんはそれを見つけることができましたが、多くの人はそうではないかもしれません。
「好きなことを軸に就職活動をして、その業界に入れたのに、ツラいことが多い。だけど、好きで決めたんだから辞めることができない……」
そうやって、理性と感情が引き裂かれている人もいるでしょう。
ここでモエさんの成功例から学ぶことができます。
彼女は本業はもちろんのこと、お金にならないことでもフラメンコであれば進んで取り組むほどにフラメンコが好きでした。
無償で街のイベントに出たり、老人ホームでの催し物に参加したり、フラメンコを踊る機会はすべて引き受けていたのです。
ここまで好きなことは、「私らしさ」と言っていいでしょう。
しかし、そこまでの思いがないのであれば、仕事は割り切って取り組めばいいのです。
それを無理に「これが好きで、私らしさだから……」と追い詰めてしまっては本末転倒です。
「私らしさ」を見つけることも大事ですが、そうでないものを諦めたり、とらわれすぎないようにすることも同じように大事なのです。
モエさんほどの「自分らしさ」を見つけられれば、とても太い「芯」がつくられます。
彼女自身が、「私には芯が強く備わっているように感じます」と語っています。
その芯があれば、前向きなジンクスの機能を果たし、たとえツラいことがあっても、フラメンコを踊ることが「ハラ落ちする体験」となり、理性的に生きられるのです。
「自己同一型」への処方せん
「自分とは何だろう」
そんな悩みを、若い頃に感じたことがあるでしょう。
もしくは、歳をとり、定年を迎えてから考える人もいるかもしれません。
いくら「理性的な自分」で考えても、過去の体験には勝てません。
やったことのないことを知識で補っても仕方ないのです。
自分らしさが迷子になってメンヘラっぽくなっている人には、
「とりあえず外に出て、何かを見たり聞いたりしてみよう」
というアドバイスしかできません。
そして、「いつか見つかるさ」と、楽観的に構えることです。
放浪が好きな小説家のヘンリー・ミラーも、
「目的地というのは決して場所ではなく、物事を新たな視点でとらえる方法である」
という言葉を残しています。
動くことそのものが大事なのではなく、それによって多くのことを知った新しい自分に出会えることこそが、本当の目的地なのです。
そうして見つけた「自分らしさ」は、誰に何を言われようとブレることがありません。
世の中を見渡してみると、モエさんのように、好きなことを見つけて熱意を燃やしている人がたくさん見つかります。
そこからヒントを得るようにしましょう。
とはいえ、その人と自分を比べて「なんて自分はダメなんだ……」と落ち込まないことです。
実際に会えば、必ずエネルギーを得られると思います。
そのうち感動体験はやってくるはずです。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。