本当に無茶苦茶にピボットしていました。最初は2つプロダクトを世に出して、たたんだんです。それからは(実際にコードを書くに至らないが)課題を見つけてプロトタイプを作ってと10回繰り返して生まれたのがSmartHRです。だから、これまで合計で12回のピボットをしてきました。
毎週のようにピボットしていましたが、「10回目」という数字については、すごく印象深く覚えているんです。なぜかというと、Onlabの卒業生にFOND(当時の社名はAnyPerk)という会社を立ち上げた福山太郎さんという人物がいるんです。彼は、米国の著名アクセラレーター・Y Combinator(Y Com)の採択企業に日本人起業家として初めて選ばれたんですけれど、彼がY Comにいた時、めちゃくちゃピボットしたらしいんですよ。どこかの記事で「10回ピボットした」みたいなことを話していたのが記憶にあったんです。なので僕らも「10回目までは頑張ろう」と思っていたんです。
メンターから問われ続けた「6つの質問」
どうしてここまでやりきれたのか。いくつかの理由があると思っています。まずは、『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』(アッシュ・マウリャ著、オライリージャパン)という書籍です。リーンスタートアップという手法についての、実践編の教科書のような本があるんです。この中にあったヒアリングの手法をアレンジして使って、それがうまくいったということがあります。
2つめは、Onlabのメンターだった松田さん(現・エピックベース代表取締役社長の松田崇義氏)がいつも言っていた「6つの質問」です。(1)誰の、(2)どんな課題を、(3)どうやって解決するのか、(4)既存の代替品は何か、(5)市場規模はどれくらいか、(6)あなたがそれをやる意味は何か――この6つの質問にきちんと答えられるようになるまではサービスを作るな、コードを書くなと言われていたんです。振り返ってみるとこれが一番良かった気がします。
これに答えられるサービスを作ることは、シンプルがゆえにすごく難しいんです。それこそ10回ピボットした中には、「これはビジネスとしていけるんじゃないか」と思うものも1、2個あったように記憶しています。ですが、6つめの質問の「それをあなたがやる意味は何ですか」というのには答えられなかったんですよね。松田さんに「これフェイスブックがやってきたら一発で終わりじゃないですか」とか「(同じ領域での事業経験のある)元○○社の人がやったほうがうまくいくんじゃないですか」とか言われたとき、「確かに……」以上の言葉が出てこなかったんです。