介護サービスの失敗から、人口に対する車やバイク、駐車場の少なさが日本の大きな課題だと実感した岡井氏。ラストワンマイルの移動手段を充実させるために、Luupを創業した。

 一口に「移動面での課題」といっても、人口の二極化が進む日本では地域ごとに問題点は異なる。インバウンド需要や人口増加が進む都市部では日本在住者以外でも気軽に利用できる公共交通の需要が増している。一方で、地方では高齢運転者による交通事故や買い物難民が深刻化しており、日々の移動を担う交通手段が不足している。

 電動マイクロモビリティの長所は都市部と地方、どちらの課題にも対応できる点だ。Luupが若者を主要ターゲットとする二輪電動キックボードに加えて、安定性を高めた四輪電動キックボードやシニアカーを開発しているのは、都市と地方、若者と高齢者、いずれのの利用も想定しているからだ。

電動キックボード、車両区分の新設も視野に

 日本での電動マイクロモビリティの普及を阻害する大きな要因の1つが法規制だ。現行の道路交通法では、電動マイクロモビリティは原動機付自転車(原付)に分類され、ミラーやウインカーをはじめとする保安部品の追加を伴う車体の改造と、乗車時の免許の携帯、ヘルメット着用が義務付けられる。こうした制限のもとでは、海外と同じようにシェアサービスを運営するのは難しい。また電動マイクロモビリティは、原付扱いのため路側帯に入ることも許可されていない。自転車に近い速度の電動マイクロモビリティが、自動車と一緒に車道を走ることを強いられるのも危険だ。

 一方、法規制が厳しくない海外では普及が進んだ結果、すでに電動キックボードの無造作な放置や、歩道走行時の歩行者との接触事故、車道走行時の交通事故が発生している。こうした問題を受けた規制も敷かれつつあり、世界中で適切な運用法を模索している段階だ。

 現状に鑑みて、Luupは各所との議論を重ねつつ、適切な電動マイクロモビリティサービスの運用実現を模索。自治体や要請がある私有地(リゾートホテルや工場、ゴルフ場など)と連携して実証実験を重ねている。連携している自治体は、静岡県浜松市や奈良県奈良市などすでに9つある。岡井氏は今年5月に国内の主要な電動キックボード事業者をメンバーとするマイクロモビリティ推進協議会を立ち上げ、会長に就任している。

 また、12月までを実証期間とした横浜国立大学キャンパス内での実験は、経済産業大臣らを主務大臣とした「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」に認定された。実験結果をもとに運転者や周辺環境まで含めた安全な運用法を議論しつつ、道路交通法に「低速eモビリティ(免許不要で時速25km以下で低速車道を走行する乗り物など)」という車両区分の新設を目指すという。