生成AIの進化に不安はない?
研究員はAIとどう向き合おうとしているのか

 ChatGPTが話題になって以降、筆者は何かにつけて取材相手に「生成AIとどう向き合っていくか」を問うてきた。「AIが人間の仕事を奪う」と考えている人は、76.9%に上るという。筆者自身、仕事の形が変わっていくのを実感している。つい先日、1分足らずでプレスリリースからニュース記事を自動執筆する生成AIの無償提供が始まった。これはまだ小さな一歩だが、こうも進化が速いと、どうすればあと何十年も好きな仕事を続けられるのか全く想像もつかない。要は、取材者の皮をかぶった人生相談である。

 今回は、研究員の山下さん、岩崎さんに不安はないかと聞いてみた。

「手元にある知識や情報をどう料理するかが研究開発の醍醐味(だいごみ)。それが変わらない限り、AIが導き出してくれた回答をうまく活用してやろうというのが正直な気持ちです」(山下さん)

「研究開発に求められるのは、ユーザーの気持ちに寄り添うこと。人の心が分かるのは、やはり人の心でしかない。人間の本心にたどり着けるのを強みに頑張れば、まだまだ生き残れると思っています」(岩崎さん)

 前回取材した、「分身AI」を開発するSpiral.AIの佐々木雄一さんは、「人間の素晴らしいところは、チャレンジ精神だ」と。大日本印刷 生成AIラボのリーダー 和田剛さんは、「得意領域がある人は生成AIをそこまで脅威には感じていない。生成AIにはない独自のノウハウ、経験に裏打ちされたアイデアを持っているから」と。ダイドーグループホールディングスでAI活用を推進する人事総務部の早稲田拳さんは、「主体性を持って熱くなったり、周囲と協力して前に進んだりするのは、人間にしかできない仕事だ」と、人間の可能性を語ってくれた。その言葉はなぜかそのまま、その人自身の在り方を映し出しているようにもみえた。

 はっきりとした答えはない。ただ全てが効率化され、もう何も仕組み化するものがなくなったとき、生身の自分に残るものは何か。それが自分の本質であり、魂なのかもしれないと、そんなふうに思った。