体力がなくてもその先の景色が目撃できる
…e-bikeの歴史

 ヤマハ発動機が世界初の電動アシスト自転車「PAS」を発売したのは1993年なので、e-bikeには30年の歴史がある。ヤマハPASが量産化された25年前、箱根駅伝の山登りで知られる往路第5区(距離23.4km)を私が実走したときは、中間地点の宮ノ下・富士屋ホテル前でバッテリー切れ。あとは重量30kgの鉄の塊と化し、ゴールできなかった記憶がある。

 それから20年、技術は確実に進化して、ユニットの小型・軽量化を実現。ハンドル部分に液晶サイクルコンピューターがあって、電動パワーの強弱や電池残量を操作・把握できるようになった。目ざわりだった大型バッテリーもフレームの中に組み込まれるなどでスマートになった。

 世界屈指の自転車部品メーカー「シマノ」も独自開発のモーター「STEPS」を開発。2018年にそれを日本で初搭載したミヤタサイクルの電動アシストクロスバイク「クルーズ」で箱根の第5区にリベンジしてみると、バッテリー消費はわずか1/3でゴール。20年でバッテリー寿命は6倍に伸びたというわけだ。所要タイムは1時間09分29秒で、その年の箱根駅伝区間記録を上回った。

「バッテリーの持続時間や最大出力は法律の制限もあるので、どのメーカーも横並び、バッテリーの持続時間も容量の大小はあれど、性能としては横並び。今後の差別化ポイントは自然に気持ちよく走れるアシスト制御になってくると思う。ホンダが開発したスマチャリ(後述)はその最先端を行っており、ペダルの入力状態や車体の加速度を感知し、アプリが自動制御して自然な出力にコントロールしてくれるAIモードがある。もちろんマニュアルモードもありレスポンスの速さも選べて、あえて漕ぎ出しのときにグッと出るようにすることもできるし、それが怖いと思う人はスムーズな加速力に設定することも可能」(田渕店長)

「電気の助けで目的地に到着して、はたしてそれで感動できるのか?」という疑問を、田渕店長に尋ねてみた。学生時代に北海道を自転車で一周した経験があって、オートバイを使って旅をする人たちとも現地で思いを共有した記憶があるという。

「当時は自分の足でペダルを漕いでこそ到達した地点で見る景色に感動を覚えると思っていたけど、オートバイの人たちだって感動する。それを思い返してみると、峠を目指して自力で上る人もe-bikeの人も感動は同じだと思う。e-bikeがなければ、その人はその峠には登れなかったはずなので」