刑事責任と再発防止の
どちらを優先か

 それはなぜか。民間航空機を対象として1944年に締結された国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づき、47年には国際民間航空機関(ICAO)が発足。その目的は国際的なルールを定め、国際民間航空を秩序あるものにするというのが理念だ。

 条約批准国は同時にICAOに加盟することになっており、日本も53年に批准した。そして、ICAOは各国の運輸安全当局の準拠となる航空機事故調査に関する条約も定めているが、あくまで原因究明と再発防止を目的としており、ハイジャックなど明らかな犯罪の証拠以外は、調査結果を刑事捜査や裁判に利用することを禁じている。

 日本の場合、運輸安全委員会設置法第1条(航空事故等の原因並びに航空事故に伴い発生した被害の原因を究明するための調査を適確に行うとともに、これらの調査の結果に基づき国土交通大臣又は原因関係者に対し必要な施策又は措置の実施を求める)で、事故調は原因究明と再発防止に必要な調査・研究を行ってきた。

 前述の通り、業務上過失致死傷罪や重過失致死傷罪については警察や検察が捜査するが、事故調の権限は運輸安全委員会設置法第18条で「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と明記されており、ICAOの理念と合致する。

 筆者が過去に航空機事故で取材した航空安全推進連絡会議の役員によれば「原因究明と再発防止のため『刑事責任は問わないから真実を語ってくれ』というのが世界的な動向」のようだ。また、筆者が過去に取材したトクシュ班長(当時警部)は「事故が起きたら捜査するのは当然で、しっかりやるまでだ。ただ、不起訴という可能性は頭にある」と話していたのを記憶している。

 はっきり言ってしまえば、自治体警察としては捜査し、書類送検しなければならないが、国際条約の理念に照らせば死者が出なかったような軽微なケースだと刑事責任を問いにくいという現実があるようだ。