復旧費用を出すのはJR西?石川県?
上下分離方式によるジレンマ

2005年に廃止となったのと鉄道・宇出津(うしつ)駅跡2005年に廃止となったのと鉄道・宇出津(うしつ)駅跡 Photo by Wataya Miyatake

 さて、本題だ。全長99kmに及ぶこの鉄道ルート、特に被害が大きいのと鉄道を復旧できるのか。最大のポイントは、「復旧費用の引受先」となるだろう。

 実は、のと鉄道は線路や鉄道設備を保有していない。「上下分離方式」と呼ばれるスキームにより、同社でなくJR西日本が保有しているので、のと鉄道の復旧にかかる費用を誰が負担するのか、非常にややこしくなりそうなのだ。

 この上下分離方式は、ローカル鉄道が維持費を軽減するために、よく用いられている(一例として鳥取県・若桜鉄道、岐阜県・養老鉄道など)。ただ、一般的な上下分離方式は、設備を自治体が負担する場合が多いが、のと鉄道の場合はJRから転換した際の諸事情により、JR西日本が設備を保有し、のと鉄道が線路と駅の使用料を払う方式(第2種鉄道事業者扱い)だ。

 これが赤字会社の復旧であれば、国が実質97.5%まで補助できる仕組みがある。実際に、熊本地震で被災した南阿蘇鉄道などが活用してきた。

 ところが、黒字会社であるJR西日本が復旧を担う場合、かかる費用の支払いは、「国が4分の1、県・自治体が4分の1、鉄道会社が2分の1」と鉄道軌道整備法施行令で定められている。能登地震ではJR西日本管内での被害も生じており、半額の補助が得られたとしても、JR西日本にとっては相当な負担となるだろう。

 これから事態がどのように動くのか、考えられる案としては、下記があるだろう。

・復旧費用を石川県が負担
・復旧はするものの、のと鉄道がJR西日本に払う設備使用料を値上げ
・JR西日本の特急が乗り入れる七尾駅~和倉温泉駅間の復旧を優先、残り区間は後回し
・石川県や沿線自治体に買取りを求める

 ただ、いずれも、これまで補助金で何とか存続してきたのと鉄道の経営に大きな負担となることだけは間違いない。

 なお、のと鉄道が輪島駅まで直通していた2000年時の線路と駅の使用料は、年間1.4億円だった。その後、穴水駅~輪島駅間が廃止された際の短縮距離(53.5kmから33.1kmに短縮)で考えると、現在の使用料が年間3593万円(21年度。同社の有価証券報告書より)というのは、相当な低水準で抑えられている。

 もう一つ、重大な懸念材料がある。IRいしかわ鉄道が、黒字体質から一転、赤字体質になる可能性だ。同社は、3月に北陸新幹線が敦賀駅間まで延伸開業した後は、現在の区間(金沢駅~津幡駅~倶利伽羅駅)より乗客がやや少ない、金沢駅以南(金沢駅~大聖寺駅間)の移管を受ける。すると今後10年間は、「42億円程度の赤字」が見込まれているのだ。

 こうなると、復旧費用の引受先に続くポイントとして、石川県が交通インフラに対する支援で何を優先するか、が焦点になりそうだ。県内では、金沢市郊外にある北陸鉄道(浅野川線・石川線)や、運転手不足で減便を繰り返す北陸鉄道バスなどに支援が必要な状況。さらに今後はIRいしかわ鉄道への補助も必要となると、のと鉄道の復旧にどれだけリソースを避けるか、微妙なところでもある。

 能登地震が地域に与えた被害は大きく、復旧が必要なのは鉄道だけではない。のと鉄道を復旧させるには、国からの特例措置や補助を引き出すしかないだろう。国会議員時代から交通問題に取り組み、「国とのパイプ役」をアピールして当選した馳浩石川県知事は、どのように采配するだろうか。