進撃の日本製鉄#72022年8月25日、熊谷俊人知事(左)から文書を受け取る日本製鉄の谷潤一東日本製鉄所長(当時) Photo:SANKEI

2022年、日本製鉄東日本製鉄所君津地区で赤く染まった水が流出する事故があった。実はこれ以外にも、無色の有毒物質シアンが流出するなど、半年ほどの間に計6件の事案が発生していた。安全が最優先されるべき職場で何が起きていたのか。特集『進撃の日本製鉄』の#7では、事件の全貌をひもときながら、生産現場が抱える課題に迫る。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

川が赤く染まり魚の死体が浮遊
安全第一の製鉄所で「ずさんな管理」

「ご安全に!」

 製鉄所では、昼夜問わずこのあいさつが交わされる。わずかなミスが生命の危機に直結する製造現場ならではの習慣だ。

 ところが、2022年に、日本製鉄の東日本製鉄所君津地区(千葉県)で、ずさんな安全管理が露呈する事態が起きた。川が赤く染まっていたり、死んだ魚が水面を漂っていたりといったショッキングな映像が各メディアで流され、世間の耳目を集めた。

 その後、報道合戦は落ち着きを見せたが、実はその後も事態は収拾していなかった。次ページで詳述するが、無色の有毒物質であるシアンの流出が発覚するなど、前述の着色水漏れを含め計6件もの事案が立て続けに起きていたのだ。千葉県庁関係者は、「初歩的な過ちで、安全管理があまりにずさんだ」とあきれ返る。

 安全管理が徹底されているはずの製鉄所で、いったいなぜ毒物の流出が起きてしまったのか。次ページでは、シアン流出事案の全貌をひもときながら、生産現場が抱える課題に迫る。