「インフレ期には実物資産が強い」は本当か?
その一因は、インフレの想定外の持続にあった。インフレ期には、いわゆる「実物資産」(未来の経済の一部に対して直接的な請求権を持つ資産)に投資するのが最善策である、という主張をたびたび耳にする。
この主張は正しいが、あくまでも相対的な意味での話だ。それはインフレが債券や現金に対して及ぼす壊滅的な影響を物語るものであって、その他の資産の絶対的なメリットを物語っているわけではない。
実際、1970年代の最善の戦略は、巨額の借金をして、そのお金を株式、不動産、できれば物的資産に投資する、という方法だっただろう。1920年代初頭にヴァイマル共和国のフーゴー・ディーター・シュティンネスが採用したのと同じ方針だ。
銀行預金や国債の実質利益率がマイナスだったことからもわかるように、負債はインフレによって目減りするが、いわゆる実物資産の価値はわずかながら上昇しただろう。
こうしたチャンスを活かすのに最も有利な立場にいたのは、マイナスの実質金利と急騰する名目所得の両方によって住宅ローンが目減りしていく新規の住宅購入者層だ(もちろん、増加し続ける失業者層に加わらずに済むなら、の話だが)。
最悪の立場にいたのは、現金貯蓄の少ない賃貸住宅の居住者や(分散投資は、各種リスク資産においてときどき一定の損失を受け入れる余裕のある人にしかお勧めできない)、職場での交渉力に乏しい人々だ。たとえば、貧しい年金受給者、労組未加入の労働者、なんらかの給付に頼る人々など、一般的には社会の弱者たちである。