非常識ではなく先見の明があった
ファブレス&ファウンドリーシステム
そうした相反する条件が存在する中で、両者の条件を満たすものとして考えられたのが、当時は非常識とまで言われたファブレス&ファウンドリーシステムだ。筆者が前回の記事(https://diamond.jp/articles/-/322006)で、ラピダスに疑問を呈したのはこの点だ。
ITRIとTSMCは、技術を磨くだけでなく、大規模生産による規模の経済性と小口の需要というビジネス的にメリットのある2つの条件をどうしたら同時に満たせるかを、懸命に考えた。その結果たどり着いたのが、ファブレス&ファウンドリーシステムであり、優れた技術の知恵に加えて、優れたビジネスの知恵がTSMCを成功に導いている。
一方のラピダスは、半導体の規模の経済性を考えずに、技術的に最先端で差別化ができるから小口の需要を満たせるという安易な発想をしている。そこに、これまでの日本のテック企業の失敗と同じ臭いを感じるのだ。ラピダスには優れた技術があるだろう。だが、それに加えて、優れた技術と同等レベルの優れたビジネスの知恵も持ってほしい。
日本企業に台湾から学んでもらいたい一つ目のポイントは、このビジネスの知恵と技術の知恵のバランスである。日本のテック企業の多くが「戦略=技術」という固定観念を持っており、技術開発以外の手法で儲けようとすることが邪道のような雰囲気まである。このような硬直的な発想を捨て、新たな価値創造のための技術力に加えて、その技術成果から最大限の収益を獲得するためのビジネスの知恵、価値獲得の能力を高める必要がある。
もう一つ台湾から学べる大切な示唆は、工程イノベーション、この場合生産技術の重要性である。ウィリアム・J・アバナシーは技術的なイノベーションを、製品開発を行う製品イノベーションと製造を担う工程イノベーションに分け、それぞれ異なるタイミングで異なるイノベーションが起きることを明らかにした。マイケル・L・タッシュマンとチャールズ・A・オライリーは、アバナシーの議論を受ける形で、製品イノベーションには探索型の組織学習が重要であり、工程イノベーションでは、活用型の組織学習が重要となることを示した。いわゆる「両利きの組織」の議論である。