日本企業は多くの場合、新たな製品技術を探索的に開発する製品イノベーションにのみフォーカスして、常に新しいものを探索し続ける傍ら、既存の技術に対する工程イノベーションを疎かにしてきた。作りっぱなしですぐに次の技術に飛びつくといってもいい。日本企業が「次の技術で勝つ」というときの次の技術は、大抵製品イノベーションの話である。

 それに対し、台湾の半導体産業は始めから工程イノベーションを製品イノベーション同様か、それ以上に重視してきた。ITRIは単に半導体製品の技術開発にとどまらず、半導体製造要員の教育にも力を入れ、いかに優れた生産技術を磨き上げるかということを重視してきた。その結果が、製造においてはだれにも負けないTSMCのような企業の育成につながった。

日本にとって工程イノベーション
を学ぶチャンスに

 日本企業がTSMCから学べることは、半導体の製造技術そのものもある。最近、台湾のメディアでは、TSMCの日本進出によって台湾から日本に技術流出するのではないかという懸念すら報じられている。すでに半導体の製造技術では日本は最先端ではない。ここは、素直にすぐれた工程イノベーションを学ぶチャンスにすべきである。

 また、製造技術を学ぶことそれ以上に重要なのは、工程イノベーションを軽視せずに、既存の技術でしっかりと儲けるためのビジネスの知恵をしっかり持つ、その姿勢である。安易に次の製品技術で勝つと考えるのではなく、既存の技術でいかに利益を創出するか、骨の髄までしゃぶり尽くすように既存技術の活用を考えることも、製造業には大切だ。

 なぜなら、既存技術の活用による収益は、次の製品開発投資の原資になるからである。日本が大好きな「次の技術」のためにも、お金は必要である。既存技術でしっかり儲けることができなければ、製品技術開発も先細りするだけであって、しっかり足元で儲けることで、次の製品イノベーションのための原資を作ることが重要だ。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)