変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

なぜ「日本企業の労働生産性」は、OECD諸国の中で一番低いのかPhoto: Adobe Stock

見る影もないかつての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」

 日本はかつて製造業の分野で世界をリードし、革新的な「改善(Kaizen)」や「カンバン(Kanban)」方式を通じて高い生産性を実現してきました。しかし、現在の日本の労働生産性は、OECD加盟国中でも低い水準に留まっています。この背景には、デジタル化とグローバル化の波に適応する過程での遅れがあると考えられます。

 例えば多くの日本企業では、これまで情報共有を目的とした会議が数多く行われてきましたが、デジタルツールの普及により、そうした場の必要性は低下しています。

 また、これまで日本は日本語という言語によって守られてきましたが、翻訳技術の向上により、今後は定型業務のみならず創造的な仕事までもが世界の最も低コストかつ高品質な人たちにアウトソーシングされてしまうでしょう。

 こうした変化は、効率性や生産性の向上に貢献する一方で、適応できない従業員や組織には深刻な影響を及ぼしています。

時代の変化に柔軟に対応するスキル

 不透明で変化の激しい時代を生き抜くには環境に柔軟に対応する必要がありますが、そのためには私たち一人ひとりがユニークなスキルを身につけることが必要です。

 一昔前までのユニークなスキルには、偏差値競争でトップになったとか、国家資格を持っていることが重要だったかもしれません。しかし、これからは学歴や一つのスキルではなく、例えば「アーキテクト思考力×日本語×モビリティ」や「インドネシア×アパレル×デジタル」のように、複数のスキルを掛け算で考える必要があります。

 一つの領域でトップを目指すのではなく、すべてのスキルを掛け算で考えたときにユニークな存在になることが重要です。自分でユニークな構想ができれば、世界中の人たちと連携してプロジェクトを推進することも可能になります。

アジャイルな働き方を推進すべき

 アジャイル仕事術は、「構想力×俊敏力×適応力×連携力×共創力」の5つのスキルで構成されます。これらさえ身につけていれば、それ以外は全て外部パートナーに任せられる時代が来ています。

 また、小さな単位での作業を繰り返し目標に向かって進むアジャイル仕事術は、高い変動性や不確実性の中でも柔軟かつ迅速に対応することを可能にし、組織やチームの継続的な改善とイノベーションを促進するのに役立ち、ひいては日本企業の労働生産性の向上に寄与することができるでしょう。

 その際に重要なのが、経営者が明確な方針を出して、基本的には現場の判断に任せることです。無策にアジャイル仕事術を導入しても、現場では無駄な手戻り作業が増えて生産性はより低下するでしょう。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。