午前2時に起床し、生活の全てを株式投資にささげる人物がいる。投資歴68年の現役トレーダー、藤本茂さん(87歳、以下シゲルさん)だ。初の著書『87歳、現役トレーダー シゲルさんの教え』(ダイヤモンド社)は、昨年11月の発刊以来、異例の早さで12万部超のベストセラーとなった。特集『あなたも億り人に!? 凄腕シニア投資家が教える 株式運用術』(全17回)の#1では、総資産20億円超の、シゲルさんの半生と投資の極意に迫る。(ライター 松田小牧)
資産20億円超の87歳現役トレーダー!
シゲルさんが明かす「人生と相場の神髄」
取材班は幸運にも、日経平均株価が史上初めて4万円を超えた3月4日、87歳現役トレーダーの藤本茂さん(以下、シゲルさん)への密着取材を敢行できた。まず、端的にその半生を紹介しよう。
シゲルさんは1936年4月、兵庫県印南郡阿弥陀村(現高砂市阿弥陀町)の農家の4人きょうだいの末っ子として生を享けた。実に陸軍の青年将校らがクーデターを起こした二・二六事件の1カ月ほど後のこと。日本が泥沼の戦争に突入していく、まさにちょうどそんな時代だった。
戦時下という背景も相まって、決して裕福とはいえない家庭で育ったシゲルさん。小さい頃から数学が得意で、周囲からも頭の良さを褒めそやされていたが、家庭のことも考え大学進学は諦め、高校卒業後にはペットショップに就職した。
株式投資を始めたきっかけは、ペットショップの顧客だった証券会社の役員に勧められたからだ。19歳のシゲルさんが初めて買った銘柄は、早川電機工業(現シャープ)、日本石油(現ENEOS)、大隈鐵工所(現オークマ)。いずれも、いまはその名をとどめない企業群である。
その後、シゲルさんは、ペットショップやマージャン荘(雀荘)の経営者として辣腕を振るいながら、隙間の時間で株の売買を続けていた。ただしその時点では、「普通の会社員が余裕資金で行う程度のもの」だったと振り返る。
そんなシゲルさんの転機となったのは、転換社債との出合いだ。転換社債とはその名の通り、「一定の条件を満たせば株式に転換できる社債」のこと。要は株式と債券、双方の性質を持つ金融商品を指すが、シゲルさんはこの投資にのめり込んだ。そして、86年、順調そのものだった雀荘を知人に売り渡し、「専業投資家として生きていく」と決めた。
これまでの投資人生は、山あり谷ありだった。特に、深く記憶に残っているのは、専業投資家としての道を歩み始めた翌年に猛威を振るったブラックマンデーだ。