人手不足および人材育成の難しさ
次に、人手不足は、企業のあらゆるレベルに影響を及ぼしている。多くの会社で新しい人材の確保とその育成が急務となっているが、まずは現場の業務を中心に新規採用ができない。現場社員が足りないと、生産部門や販売部門での人手不足がボトルネックになって、計画値を達成できない。本社は大丈夫でも、グループ会社や下請け会社は非常に厳しい状態にある。
また、定年延長などでどうにか確保してきた経験豊富なスタッフが、職場から消えつつある。ベテラン社員の不足は、新入社員や若手社員の教育にも影響を及ぼし、人材の質の低下を招いている。
ここでも、管理職は、人材不足による業務の遅れをカバーするために、自らが業務の一線に立つことを余儀なくされる。これは、管理業務に割くべき彼らの時間を奪い、結果的にチーム全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことになる。
ハラスメント防止の強化による負荷増
ハラスメント防止の対策強化は、職場環境の改善には不可欠なのだが、管理職にとっては課題の増大を意味する。彼らは、社員に対する適切な指導と適度なプレッシャーのかけ方を常に意識しなければならず、業務指示の際に葛藤を生んでいる。プレッシャーは、ともするとハラスメントと見なされかねない。
管理職は、厚生労働省が公表しているパワハラ6類型などを傍らに、自らの言動がハラスメントにならないように常に注意しなくてはならない。
未熟達者に対して冷静かつ論理的に業務の指導をするのは、よほど業務に精通していなければできないので、自分でやってしまったほうが早い。また、過去の施策とこれからの施策のねじれなどから論理的に整合性のとれない業務をやれ、と部下に指導するのも“過大な要求”としてハラスメントになるかもしれない。それで、結局、自分がこなすことが増える。
そればかりか、部下が、対外的あるいは同僚に対してハラスメントを行っていないかチェックしなければならないという意味でのハラスメント防止の業務まで負わされている。
このようなことから、ハラスメントへの懸念が、最終的には管理職の首を絞める状況になりつつある。
下請け企業が仕事を断る現実
さて、このような事態は、突然生まれたわけではなく、徐々に強まってきた傾向である。
これまでは大企業の人だけが、美しく正しい労働環境づくりにまい進し、一方で、下請け企業に無理難題を押し付けることでどうにか対処してきた。
ところが、その方法もとうとう臨界点を越えてしまった。下請け企業もまた上記の三重苦の影響をまともに受けており、大手企業からの要望を断るようにさえなっているのである。
先日、あるスーパーゼネコンの上級管理職から聞いたところによれば、下請け企業から仕事を断られることが頻発しているという。もともとの力関係では、そんなことはありえなかった。しかし、下請け企業から「仕事を請けても遂行できないので申し訳ありません」と言われればどうしようもない。下請け企業でも人材難が深刻で、請け負った作業を全うできる高い技術を持った人が払底しており、無理なものは無理ということなのだ。
これらの状況を踏まえると、企業は管理職の負担を軽減し、現場の対応力をできるだけ維持するための新たな戦略を立てる必要がある。具体的には、テクノロジーの導入による業務の自動化や効率化、業務改善などである。
しかしながら、ここにも大きな問題がある。既存の業務を行いつつ、変革活動を進めることは、長期的には良い結果につながったとしても、短期的には労働強化につながり、それでなくても大変な現場の負担をさらに大きなものにしてしまう。その際にも矢面に立つのは、またしても管理職である。