市井の声は懐疑的か?
一方金融関係者からは好評
筆者が数十人に聞き取り調査を行った結果、上記のアンケート結果に比して、マイナス金利解除に懐疑的な声の割合がだいぶ多かった。もっとも直接インタビューする形式で調査を行ったので、回答者が「脳内お花畑だと思われないように自重気味に回答しよう」と意識した可能性を差し引きながら、回答を見ていく必要はある。
「まだ時期尚早。あと数年待って判断するべし」(60代男性)
「金利上昇によって株価が下がるとまずい」(40代男性)
「マイナス金利解除に反対ではないが、それで消費が上がるとは思わないでほしい」(30代男性)
「せっかく景気が上向き始めそうだったのに大丈夫かなと不安」(50代男性)
春闘が好調との報道だが、賃上げを行えているのは一部大企業で、中小企業以下は以前苦しいとも伝えられている。多数の人が感じている、好景気の実感が得られない生活の手触りが、マイナス金利解除への懐疑の根っこにありそうである。
住宅ローンの金利に関しては、先述のAさん同様、「大幅な変動はないだろう・ないと思いたい」という見方が多かった。
他方、ある金融関係者はおおむね評価する方向のようである。
「金利がある程度高くないと経済ショックが起きた際の緩和策が限られるから、いつかは金利を上げておくのがベターではあった。マイナス金利解除によって株が暴落することがずっと恐れられていたが、日銀の植田総裁は事前にリーク記事を出させるなどして市場にショックを起こさせないことに完璧に成功したから、『市場とコミュニケーションを取れている人』という点で市場関係者からはすごく評価されている声がある。
会社経営者は、『コロナ融資の返済も始まったタイミングなので、金利が上がったら資金繰りがきついうえに、賃金上げるのなんてさらにきつい』と考えている」(金融業)
なお、日銀のマイナス金利解除を受けて、大手銀行が相次いで普通預金金利の大幅引き上げを決定したが、たとえば「三井住友信託銀行とりそな銀行は金利0.001%から20倍の0.02%に引き上げ」で、他も似たような塩梅であり、「チリがホコリになった」などと言われていて、これにはほとんどの人が「ほぼ恩恵なし」と感じているようである。
さて、不動産関係、金融関係、そして一般人と、判じ方が異なっている様子は興味深かった。見える景色・見ている景色はそれぞれである。
良し悪しが目下議論されている今回のマイナス金利解除だが、舵はすでに切られた。うまくいってくれることを願うばかりである。