アメリカン・ゲーミング協会によると、2023年に合法的なスポーツ賭博でアメリカ人が賭けた金額は1198.4億ドル(前年比27%増)、1ドル=150円換算で約18兆円にも上る。米国では18年、連邦最高裁がスポーツ賭博の合法化を(実質的に)各州に任せる判断を下すと、強力に推進する州とそうでない州に分かれた。
ギャンブルというものは賭けた人のほとんどの人が負ける仕組みなので、ゲーミングの経営側は莫大な利益を手にすることができる。現在の米国では38州でスポーツ賭博は合法である一方、今回のケースであるカリフォルニア州を含む12州では違法だ。ギャンブル中毒者を食いものにしてぼろ儲けをしている組織がいることは米国でも注視されていて、例えば23年、ニューヨーク州で民主党のポール・トンコ議員が、スポーツ賭博のテレビおよびオンライン広告を禁止する法案を提出した。が、全くと言っていいほど議論にならなかった。薬物中毒に対しては連邦政府の予算が割り当てられている一方、スポーツ賭博中毒に対してはゼロであるというのが実態だ。
筆者は今回、1972年に設立されたNational Council on Problem Gambling (NCPG)で26年間、所長を務めているキース・ホワイト氏に緊急取材を行った。ギャンブル中毒の専門家としてホワイト氏は、まずその定義を、「当人や家族、近しい友人などに対して損害を与えるほどギャンブルにのめり込み、日常生活やキャリアを破壊すること」だと強調した。中毒の症状としては、ギャンブルのことが常に頭から離れず、chasing loss(損失を穴埋めしようとさらに賭ける)と呼ばれる衝動に駆られ、さまざまな問題を起こしてしまうという。
米国では深刻なギャンブル中毒者が約250万人いるそうだ。ただし、その予備軍とでもいうべき中程度の問題を抱える依存症者も、500万~800万人もいるというから驚きだ。彼・彼女らは、Gamblers Anonymousという当事者の集まりに匿名で参加することで、症状を改善しようと試みる。米国ではアルコール依存症も大変よく知られる社会問題であり、同様にAlcohol Anonymousという当事者の集まりで、互いの経験を共有し激励しながら立ち直っていく。依存症というものは一人きりで治療することは極めて困難であり、なるべくこのような会合に参加し、仲間を見つけながら向き合っていくことが重要だ。
さて、スポーツ賭博について気になった点がある。それは、スポーツ選手自身がハマるケースが意外と多いということだ。スポーツ賭博は80%以上がオンラインや電話で行われる。スポーツ選手が違法なスポーツ賭博に関わった場合、所属するリーグによって問題対応に関するルールが異なるが、一定期間の活動中止もあるし最悪、永久追放を受けるケースもある。
具体例を挙げると、National Football League(NFL、アメリカンフットボール)では、少なくとも15人の選手がギャンブリングの規定を破ったことで、一定期間の活動停止に追い込まれている。一例としてNFLは、21年シーズン中にNFLの試合で賭博を行ったとして、アトランタ・ファルコンズのカルビン・リドリーへの無期限の出場停止処分を発表した(リドリー選手は22年シーズン終了まで出場停止となった)。
あるいは、米国の国民的スターであり、ゴルフ界のレジェンドでもあるプロゴルファーのフィル・ミケルソン氏は、30年間の現役生活で総額10億ドル(約1500億円)以上をギャンブルに費やしていたと暴露された。この中にはスポーツ賭博に費やした例も相当あり、彼自身が「ギャンブル依存症だ」と告白してもいる。