理念経営のキーパーソンたちとの対談シリーズ「理念経営の実践者たち」もいよいよ第10弾となる。今回お話しいただいたのは、北欧雑貨などのECサイト「北欧、暮らしの道具店」を手がけるクラシコム代表取締役の青木耕平さん。ECサイトのみならず、オリジナル商品の企画開発、暮らし関連コンテンツの配信、タイアップ広告など、多岐にわたる事業を展開しているクラシコムの根底には「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションがある。
理念経営2.0』著者である佐宗邦威さんは、書籍の構想段階から青木さんに独自インタビューをし、クラシコムの理念経営に衝撃を受けていたという。それから5年が経過した先日、同社が理念体系を刷新したばかりのタイミングでお二人の対談が再び実現した。今回のテーマは、刷新されたばかりの同社の新しい理念体系について(第3回/全5回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)。

 「北欧、暮らしの道具店」を生んだクラシコムは、理念体系をどう整備してきたのか?

「綻び」を修繕するなかで出来上がった理念体系

佐宗邦威(以下、佐宗) クラシコムでは2023年末に理念体系を刷新されたと伺いました。2024年1月には、それを詳細に明文化したものを社外向けに発表されたそうですね。

青木耕平(以下、青木) はい、いくつかの変更をしましたが、ミッション(存在意義)はこれまでどおり「フィットする暮らし、つくろう。」のままです。

他方で、もともとビジョンと呼んでいた「自由・平和・希望」はマニフェスト(経営方針)という呼び名にしました。また、「センシティブ・チャーミング・オルタナティブ」というバリューについては、「センシティブ・チャーミング・サステナブル」と修正したうえで、名称をフォーム(在り方)としました。さらに「正直、公正、親切」から成るポリシー(判断指針)を新たに追加しています。

佐宗 なるほど。最初はミッションだけだったわけですが、徐々に進化していますね。

青木 僕の中には「綻びを直そうとする本能」みたいなものがあるんですよ。会社においては「北欧、暮らしの道具店」などの事業そのものは妹に任せていて、それ以外の「綻び」全般を修理して回るのが僕の仕事です。それこそ創業当初なんかは「倉庫と経理のおじさん」という感じで、オフィスにできたハチの巣をなんとかしたり、雨漏りを直したりという雑用全般を引き受けていたんです。

そういう仕事の一つに「理念体系を整備する仕事」があったんです。これも理念の「綻び」を直すわけです。

「フィットする暮らし、つくろう。」は、身体感覚を伴ったいいミッションだなと思っていますが、正直なところ、僕は一度も「今、フィットした暮らしができているな~」って感じたことがないんですよ。

でも、そうだからこそ、このミッションを嘘にしないためには「少なくともそちらに向かって前進してはいる」という感覚だけは持てていないといけない。ミッションと現実のあいだを埋めるストラクチャーが必要だったんです。その「綻び」を直すためにつくったのが、マニフェスト・フォーム・ポリシー(旧バージョンではビジョン・バリュー)ですね。

 「北欧、暮らしの道具店」を生んだクラシコムは、理念体系をどう整備してきたのか?
青木耕平(あおき・こうへい)

1972年、東京都生まれ。株式会社クラシコム代表取締役。2006年、実妹である佐藤友子氏と株式会社クラシコム共同創業。2007年、賃貸不動産のためのインターネットオークションサイトをリリースするが、1年ほどで撤退。同年秋より北欧雑貨専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を開業。現在は北欧のみならず、さまざまな国の雑貨・アパレルのEC販売を行うほか、オリジナル商品の企画・開発、広告企画・販売など、多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。