「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。
なぜ彼は「カリスマ」と言われるのか?
マグロのビジネスからも、僕の和牛の仕事には多大なるインスピレーションをもらっています。寿司の世界では、マグロの「やま幸」という名前を知らない人はいません。「やま幸」は豊洲のマグロ専門の卸業の会社ですが、社長の山口幸隆さんはカリスマ仲卸として有名です。なぜ彼がカリスマなのかといえば、最高のマグロを買い占めるからです。
いいマグロだと思えば、思い切った値段で買うのです。どうしてそれができるのかといえば、超一流の寿司店に卸しているからです。
マグロ卸業務を、根本的に改革した人
彼は今までのマグロ卸業務を、根本的に改革した人です。
全国の津々浦々の漁場を調べ、そこで発見した本当においしいマグロ、山口さんが一番だと思うものを、超一流のお店に持っていくことにしたのです。
山口さんは、競りでもほとんどのマグロを買い占めていきます。なぜなら、いいマグロは人には渡したくないから。
「大丈夫。俺が見ていいと思ったものは、俺の大切なお客さんが必ず買ってくれる」
「そんなに買って大丈夫ですか?」と聞く僕に、彼はこう答えました。「浜ちゃん、大丈夫。俺が見ていいと思ったものは、俺の大切なお客さんが必ず買ってくれる」。ここでは、値札はありません。これは、情熱と情熱のぶつかりあいなのです。
山口さんから勉強したことを、僕もやっている感覚です。競りで一番高いものを買ったとしても、僕が目利きした和牛を待ってくれている人がたくさんいると思えば、なんてことはないのです。
山口さんのマグロと同様、僕が徹底的にこだわって探した和牛の買い付けだけは、今でも僕一人が担当しています。ここは誰にも譲らない、一人称の強いこだわりです。これこそが、僕の仕事の原動力のひとつなのです。
自分の好きなクラシック音楽を牛に聞かせている生産者
いい生産者は、少しでもおいしい和牛を、と日々努力されている。しかも、巨額の設備投資をして、リスクを背負っている。
気候や気温の変化に対し、病気になりがちな子牛を人間の赤ちゃん同様に元気に育てるため、暖房設備を備え付け、コンピュータ制御で空調をコントロールしている。牛の体感温度を自動制御の風力で下げるところもあります。
自分の好きなクラシック音楽を牛に聞かせている生産者もいます。牛舎のライトをすべてLEDに変えて、夏の暑さを少しでもやわらげようとしているところもあります。すべての牛に名前をつけ、家族のように大事に育てています。家畜の扱いではないのです。
一方で、放ったらかしで、ただ育てている生産者がないわけではありません。実のところ、厩舎に入って、汚いな、と感じた生産者の肉で、うまいと思ったことは一度もありません。
10円でも100円でも高く買いたい。それが、生産者のためになるから
僕ができることは、努力をしている生産者が少しでも多く、その恩恵を得ることです。僕が1円でも高く売る能力を持っていれば、一生懸命に頑張っている生産者を潤わせることができる。
だから、僕はできるだけ高く買ってあげたい。10円でも100円でも高く買いたい。それが、生産者のためになるから。そして、そんな生産者が育てた牛をもっと買っていきたいと思っています。
荒波に飛び出せば、リスクも大きいかもしれません。しかし、大きなリターンのチャンスもある。そういう構図を作りたいのです。そうすることで、和牛はもっともっと世界に知られるようになるはずです。そして、和牛のビジネスの担い手を増やしていくことになるはずです。
和牛の生産現場も革命が起きるはず
日本の米はJA流通米が50%を切りました。お世話になっている茨城県土浦の有機農家の久松さんは、「農業は大変だし、儲からないと思っている人が多い。しかし、しっかりとブランドを作れれば農業は必ず儲かるビジネスだ」と断言します。
以前の連載でお伝えした大間のマグロ漁師のエピソードも然り、高級な和牛がもっと儲かる仕組みを新しく作ることができれば、和牛の生産現場の革命が起きるはずです。
和牛を支えている繁殖農家の生産者はどんどん高齢化が進んでいます。子牛を育てている繁殖農家は、真夜中の出産などの激務ということもあり、高齢夫婦で頑張っている生産者が次々に仕事を畳んでいる実情があります。
後継者となるような新規参入者もまず入ってこない。このままでは、日本の文化でもある和牛の担い手が不足してしまうようなことになりかねません。
この仕事には、たくさんの誇りがあります
和牛の仕事に魅力を感じてもらい、新たにこの世界に入って来てくれる人を増やしていくためにも、今やらなければいけないことがあるのです。
そのために僕ができることは、和牛を買い支えるマーケットをしっかり創出することです。
お金はもちろん大切ですが、お金のためだけに仕事をしているわけではない、という気持ちも強く持っています。それは自分の喜びのためであり、楽しさのためでもあります。
多くの人の役に立てること。人を喜ばせることができること。勇気づけたり、元気づけたりできること。この仕事には、たくさんの誇りがあります。
(本原稿は、浜田寿人著『ウルトラ・ニッチ』を抜粋、編集したものです)