「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。

なぜ「コスパ」という言葉をこの国からなくさないとダメなのか?Photo: Adobe Stock

一番高く売れ、コスパという言葉を忘れろ

 値付けをどうするか。高付加価値商品を扱うときには、なかなか悩ましい問題ですが、僕の場合は、極めてシンプルなロジックを作りました。それは、「一番高く売る」ということです。

 僕は値段にとてもこだわったのですが、それは数字だけが客観的な単位になりえるものだからです。ワインのパーカーポイントでは、ロバート・パーカーというアメリカ人がワイン雑誌「ワイン・アドヴォケイト」という雑誌を創刊し、その紙面上で紹介したワインに独自に100点満点基準で、点数づけし始めてしまったのです。世界のワインを100点満点で語ることで主観的なワインの価値を絶対値化させたわけです。僕はその絶対値を価格に置き換えました。

 また、高い価格設定にすることで、僕たちが買い求めている和牛の買い支えが可能となります。その価格にしなければ、本当に精魂込め手間をかけて和牛を育てている生産者をちゃんと潤わせることが難しくなるからです。

 子牛の値段は、7年前から数倍になっています。世界一高い神戸ビーフを扱うのに、なぜリーズナブルな価格にして、生産者が犠牲を強いられなければならないのか。それは間違っています。そもそも世界一高い価格で売らなければ、彼らに利益を戻すことが難しくなる。だから、「一番高く売る」ことを自分のタグにするべきだと思ったのです。

マクラーレンでは、年間に製造できる台数が決まっている

 例えば、神戸ビーフは、輸出開始当時は月に30頭しか世界に輸出ができませんでした。一軒のレストランが一頭買うとしたら、世界でわずか30軒しか買うことができない。それだけ希少な和牛です。価格が高いのは、当然のことなのです。

 ところが、どういうわけか、こういう情報を誰も発信していない。

「神戸ビーフを買ってくれませんか」

 というセールスをしてしまったりする。これでは、あまりにもったいない。もっと希少性をアピールすべきなのです。ただお金を払ったとしても、ステータスがないと買えない。そういうステータスをどう作り上げていくか。

 例えば、マクラーレンというイギリスの自動車メーカーでは、年間に製造できる台数が決まっています。だから、オーナーになるのは、極めて難しい。結果として、マクラーレンを買うには、途方もない金額がつくに至っています。

 フェラーリやランボルギーニは、なぜあんなに高いのに売れるのか。そこで価値を認めている人がいるからです。そして一度買い出すと次のレベルのフェラーリやランボルギーニを買う権利をもらえる。こういう形でコミュニティを作っているのです。

 同じように、いかに価値を認めてもらうか。それをステータスとしてもらうか。「世界で一番高い和牛を食べたよ」と言ってもらうか。これを食べに来る人たちは、ちゃんといるのです。

「ロマネ・コンティは高過ぎる」という人はいない

 実際、「世界で一番高いイチゴです」「世界で一番高いマグロです」というのは、最もわかりやすいメッセージです。日本のマグロの競りが世界で放映されるのは、なぜか。「3億円で落札されました」がニュースになるからです。

 おいしさを伝えることは簡単なことではありませんが、価格というのは伝播しやすいのです。だから、世界で一番高く売れる可能性があるものをチョイスしたほうがいい。そして、世界で一番高く売ることを考える。

 最初から「高い」と思ってもらっていれば、「これは高過ぎる」とは言われなくなります。「ロマネ・コンティは高過ぎる」という人はいません。もともと高いワインが高いものと認識されて、相場とともにどんどん値上げされていったからです。

 大事なことは、「なんでこんなに高いの?」と言われないようにすることです。そのためにやるべきことは、「世界で一番高いんです」「どの牛よりもこのお肉は高いんです」と言い続け、その事実を明確に伝え続けることです。

世界一というのは、値段がコンテンツになるということ

 WAGYUMAFIAのカツサンドは、前の連載にも書いたように最も高いものが1個10万円です。全世界で最も高いサンドイッチです。それに対して賛否両論もありますが、実は10万円で売っても、それほど儲からない現実があります。

 一年で一頭しか生まれないチャンピオン神戸ビーフ、この値段は普通の神戸ビーフの6~8倍の価格で競り落とされます。そして、そのフィレから取れるシャトーブリアンサンドイッチは10人前のみです。

 それくらいレアで高い肉を使っているのです。普通の神戸ビーフのシャトーブリアンのサンドイッチは、2万3000円。こう聞くと、10万円という金額の値付けがわかっていただけるのではないでしょうか。

 だから、僕たちもその値段にこだわってきたし、食べた人は本当に喜んでくれる。中には、10万円のカツサンドを10個注文した外国からのお客さまもいました。100万円です。でも、こういう人が、世の中にはいるのです。

 面白かったのは、これが5000円だったら10個は食べなかった、ということです。10万円の「世界で最も高いカツサンド」を「10人で来たから10個食べたい」ということになったのです。

 世界一というのは、値段がコンテンツになるということです。

世界が認めたシェフは、その人自体、そのブランド自体がコンテンツ

「安いことがいいことだ」というマインドを、日本人はそろそろ変えなければいけないと僕は思っています。高い商品を売ろうとすると、間違ったことをしているかのように思われることがある。「ぼったくっている」と噂する人もいる。

 日本を代表する寿司屋の大将に、「もっと値段を上げたほうがいい。世界に出れば、寿司はもっともっと高い。どうしてこんなに安いんですか」と聞いたことがあります。戻ってきたのは、「自分は魚の原価を知っているから、そんなに高くは取れない」という言葉でした。だいたいの日本人がこれを美学と感じると思います。

 これは、日本人のマインドセットをまさに表していると思いました。その彼が、海外に出店して、周辺の相場に合わせて価格を設定したら、驚いていました。値段が日本の倍以上になり、しかも彼が現地で握る寿司は、日本の価格の6倍ほどの一人15万円程度となりました。

 ものすごく儲かるのです。しかし、世界のトップランカーの寿司は、それくらいして当然なのです。「原材料の価格がそうだから、適正利益を乗せて」というのでは、街の寿司屋さんと同じ発想です。世界が認めたシェフは、その人自体、そのブランド自体がコンテンツなのです。原価からの積み上げという発想を変えないといけない。ルイ・ヴィトンに行って、このバッグの原価を教えてほしいと聞く人は誰もいないでしょう。

そろそろ、コスパという言葉をこの国からなくさないとダメ

 日本だと、ちょっとでも高くすると、「あそこは商売しちゃってるね」「ぼったくりだよね」などと怒る人が出てきたりする。実際、その寿司屋でも、日本酒が高いと怒り出した人がいた。でも僕は、怒る権利はないと思いました。

 なぜか。街の酒屋で買ってきたお酒を自宅で飲むのとはまったく違うのです。お店は内装費用もかかっている。飲む器、グラスも違います、家賃だって払っているし、人件費もかかっている。そもそも、素敵なお店で過ごしているわけです。なのに、なぜか、お酒の原価が頭にこびりついてしまう。

 そろそろ、コスパという言葉をこの国からなくさないとダメだと思っています。こんなダサい言葉を使っている国は、日本だけです。そもそも、味はコストで語るものではないからです。

 世の中には寿司屋はいくらでもある。気に入らないなら、行かなければいいのです。

 安くすることを、売る戦略の柱にするビジネスも、たしかにあると思います。アメリカのウォールマートの「EVERYDAY LOW PRICE」に代表されるビジネス、薄利での大量販売モデルです。しかし、このコロナ禍を終え、ついにその終焉を迎えたのではないかと僕は感じています。人々は、安さだけを求めているのではない。

 そして、高級食材には、その戦略はそぐわない。安ければいい、というものではない。むしろ、価値を毀損してしまう可能性だってあります。

 わかりやすくいえば、僕たちはダイヤモンドを売っているのです。和牛とはすなわち、ダイヤモンド。そのくらい希少価値があるのです。

 そうであるなら、ダイヤモンドの売り方を本当はしないといけない。ダイヤモンドは、安いほうが価値が高い、などという売り方をしないでしょう。また、それを消費者も求めていないでしょう。

 絶対に安売りをしてはいけないのです。堂々と価値に合わせた高値を提案するべきなのです。

 サンプルをタダで持ってこい、と言われたこともありますが、持っていくべきではない。実際、キャビアのセールスがサンプルを持っていきますか。最高級のベルーガがサンプルを出しているなんて、聞いたことがない。

 欲しければ、少量でも買ってください、というスタンスです。買えなければ食べられない。当たり前のことです。希少なものですから、当然のマナーだと思います。実際、僕にサンプル請求してきた会社で、成約した会社は一社もありませんでした。

(本原稿は、浜田寿人著ウルトラ・ニッチを抜粋、編集したものです)