「日本のニッチが世界のメジャーになる、新しい時代がやってきた!」
そう語るのは、世界中のVIPがいま押し寄せているWAGYUMAFIAの浜田寿人氏。浜田氏は、「ニッポンの和牛を世界へ!」をコンセプトに結成された「WAGYUMAFIA」を主宰。和牛の食材としての魅力を伝えるために世界100都市のワールドツアーを敢行。世界のトップシェフと日本の和牛を使ってDJのように独自の料理にしていくのが話題になり、全世界の名だたるVIPから指名される、トップレストランへと成長しています。「1個10万円のカツサンドが飛ぶように売れる」「デビッド・ベッカムなど世界の名だたるVIPから単独指名を受ける」、そんな秘密をはじめて公開して話題となっている著書『ウルトラ・ニッチ』の中から、本連載ではエッセンスをご紹介していきます。
できるだけトッププレーヤーの言葉を聞きに行く
たくさんの業界関係者に会いに行きましたが、僕がひとつ意識していたことがあります。それは、できるだけトッププレーヤーの言葉を聞きに行くことでした。生産者しかり、飲食店しかり、卸しかり。和牛で成功している人、うまくいっている人、当てている人。
その分野で最も詳しく知っている人でなければ、見えてこないことがあります。まずはこうして、ベテラン経験者の声を蓄積する。
この連載で、素人発想で始めよ、と書きましたが、玄人の意見を集めた上で素人発想をするのです。素人発想だけでは確度が高められないことが、玄人の話を聞いた上であれば、高めることができる。
サウンディング(SOUNDING)のすすめ
僕は、サウンディング(SOUNDING)と呼んでいますが、一流の人たちの話を聞いているうちに、自分なりのストーリーができあがっていくのです。
僕の場合であれば、映画やエンターテインメントのバックグラウンド、ブランディングのバックグラウンド、座学でのアカデミックのバックグラウンド、付き合いのある海外のシェフの言葉など、いくつかの軸が組み合わさった、自分なりの和牛のストーリーが作れるようになると考えていました。
そしてもうひとつ、何が起こるのかというと、この業界におけるキーマンの存在が見えてくるのです。行く先々で、出てくる名前がありました。どうやら、和牛の世界で誰よりも情熱を持っている人。そういう人の存在が見えてきたのです。
一番強いところと組む
和牛の世界を調べていって、実は、はっきりとわかったことがありました。僕には和牛は買えない、ということです。もっといえば、和牛を売ってもらえないのです。なぜなら、と畜してもらえないから。と畜は、一定の枠が決まっているのです。
業界では「つぶす」と言いますが、と畜の枠がなければ、牛を買っても解体することができないのです。それができないなら、生産者は売っても意味がない。
しかも、つぶした牛を海外に持って行くためには、輸出の枠がありました。この枠を手に入れないと、海外にお店を作っても、輸出をすることができないのです。
権利はすでに、いろいろな既存の企業や個人が持っていました。では、今から和牛を買えるようにするには、どうすればいいか。どこかから、その枠を分けてもらうしかない。その枠を使わせてもらうしかない、ということになるのです。
要するにこれこそが、「和牛なんて素人に扱えるものではない」という壁だったわけです。しかし、この壁について、一般の人は誰も言及しなかった。誰も知らなかったからでしょう。なぜなら、誰もここまで調べ上げて、挑んだりはしなかったから。
しかし、僕はここまで来たのです。これこそが、カラクリを見破った、と書いた理由でもあります。解決策はシンプルだからです。
僕が決めたのは、一番強いところと組む、ということでした。和牛の世界で誰よりも情熱を持っている人、トッププレーヤーたちの誰もが名前を挙げた人物に、僕は頭を下げに行ったのです。
それが、兵庫県にあるエスフーズ社の社長、村上真之助さんでした。まさに、和牛の世界のトッププレーヤー中のトッププレーヤーでした。僕が扱いたいと思っていた、神戸ビーフについての輸出枠も持っていました。
村上さんに会ったほうがいい、と紹介をしてくださったのは、尾崎牛の尾崎さんです。村上さんには、大阪の南港の競りで会いました。事前に調べてみると、和牛といえば村上さん、という立志伝中の人物。一代でエスフーズグループを作られた人(2023年2月決算で売上3992億円)。中には、村上さんを「畜産のドン」と恐れていた人もいるようです。でも、僕はこの人しかいないと思うようになりました。
600円の焼肉定食を一緒に食べながら、僕は自分のアイデアを語った
僕はカフェグルーヴ時代、映画ビジネスをめぐって大手映画会社と戦ってこてんぱんに負けたことがありました。古い業界ですから、やっぱり大手が強い。だから、絶対的に強いところ、一番強いところと組むことを決めていたのです。そして、端的にお願いをしました。大阪・南港市場の職員食堂、600円の焼肉定食を一緒に食べながら、僕は自分のアイデアを語りました。
海外では和牛が高く売れていないと聞いている。海外については得意だ。海外のシェフもたくさん知っている。もっと和牛の価値を世界に認めさせたい。もっと高く売りたい。海外にしか興味はない。最高ランクの和牛だけを売りたい。だから、海外をやらせてほしい……。
もちろん、即答があったわけではありません。その後、僕の素性は丸裸にされていったのではないかと思います。どんな人物か、見極める必要があったはずです。スタートしたはいいものの、途中でやめられてしまっても困る。本気なのかどうか、しっかり調べられたのではないかと思っています。
このとき持っていったプレゼン資料のひとつが、ビデオ映像でした。僕はずっと映像に携わっていましたから映像の持つインパクトはよく理解していました。
それまでにトッププレーヤーたちに会いに行くとき、ビデオカメラを必ず持っていったのです。自分なりに重要なところを編集し、その場でお見せしました。
「一人でこういう映像作ったのか。うまいもんやなぁ」
そんな言葉をもらったことを、今でも覚えています。
浜ちゃんにも賭けるけれど、全員に賭ける。特別扱いはしない
ここから僕は何度も村上さんのもとに通うことになります。そして、過去の自分について話すと、こんな言葉までもらいました。
「仕事で失敗したっちゅうても、そんなんは、足をくじいたくらいなもんやろ。本気でやれば、必ず勝てる」
初めて会ってから半年ほど経ったある日、電話がかかってきました。答えは、OK。ただし、こう言われました。
「浜ちゃんにも賭けるけれど、全員に賭ける。特別扱いはしないということだ」
そして、話はこんなふうに続きました。
「長いことやってきたプロとやるわけだから、業界の人間と戦えるくらいの知識は一人でつけて、戦えるようにしないとあかん」
「一人でやったらいい。経験を積んだらいい。強い者が勝つ業界だ。簡単やで、1キロでも多く高く売った人間が勝つ。難しく考えるな」
こいつは本当にやる気があるのか」
こうして、僕は生産者と直接やりとりをして、和牛を扱えるようになりました。もし、「輸出枠を出す」と言ってもらえなかったとしたら、僕は和牛の仕事をすることはできませんでした。
和牛の業界のキーパーソンと呼ばれている人から、なぜまったくの門外漢の僕が、大事な枠を出してもらえたのか。
毎日のように今もコミュニケーションをしているので、改まって聞いたことはありません。しかし、何より大事だったのでは、と思うのは、「こいつは本当にやる気があるのか」という点だったのではないかと思っています。
圧倒的な情熱がある人を見つけよ
村上さんは和牛に命を賭けて生きてきたような人です。僕自身が、和牛に命を賭けようとしているか、そこは見られたのだろうと想像します。
僕は彼のような人がいると知って、和牛をますますやりたくなりました。どうしてもやりたくなりました。僕は何より情熱のある人と仕事がしたかった。心を殺すような仕事だけは絶対にしたくなかったからです。
今も彼と話すと、和牛の話ばかりです。全世界いろいろなところに一緒に行っていますが、ずっと和牛の話。エアポートでのランチも肉。一緒に食べに行くのも和牛。和牛が大好きなのです。和牛に対しての情熱が、ありえないくらいに高いのです。
単純なように聞こえますが、なかなかできない。情熱を持ち続けようと思っても、なかなか持ち続けられないものです。僕もそうありたいと思っています。
(本原稿は、浜田寿人著『ウルトラ・ニッチ』を抜粋、編集したものです)