チェーン店の融通の利かなさは、こうしたヴァラエティに富む世界には馴染まないものです。チェーン店のマニュアルが、この国においては必要不可欠なイタリア化という“汚染”を受け入れない限り、難しいでしょうね。

 たとえば、マクドナルドが、そのメニューの中にパスタやピッツァ、大きめのサラダといったイタリアの伝統料理のメニューを少しずつ加えていき、さらには、それを世界の他の地域にまで紹介していったようにです。

 スターバックスに限っていえば、イタリアにないもうひとつの理由は、私どもの国には、無数のバールがすでに存在していますし、彼らが経済的に潤えるような隙間が見当たらないということもあるでしょう。唯一、進出してくるとすれば、すでにあるバールを買収していくことしかないのでしょうが……。

スターバックスはイタリアに
どのような影響を与えるか?

 しかし、2018年、スタバはついにイタリア上陸の夢を果たした。2023年の春時点で17軒だが、観光の回復とともに半島各地への出店を広げるとの声明を発表した。

 いったい、誰が誘致したんだろうと思って調べてみたら、アントニオ・ペルカッシという元サッカー選手の実業家で、高級下着のヴィクトリア・シークレットやナイキ、グッチのイタリアでのチェーン展開も手がけている企業だった。

 イタリア第1号店のスタバは、上海、香港、ドバイ、東京にもある高級なロースタリーだというので、翌年、さっそく、覗きに行ってみた。まあ、こういう物見遊山の客も多そうだし、どうせ観光客ばかりだろうなと思いきや、開けてびっくりである。イタリア人たちもかなりいて、混み合っているではないか。

 ヨーロッパで最大の広さを持つ店舗らしい。しかも歴史的建造物の中には、誰かが“コーヒーの遊園地”と呼んだのも頷ける、まるで映画のセットのような派手な銅色のインテリアに大理石の人魚。

 東京と違って、古典的で重厚な建物ばかりの都市の住民には、何だか解放感があって楽しかったのだろう。それに、いまどきの若者たちには、地域密着型のバールと違って、適度にほっといてくれる距離感が居心地がよいらしい。