そこで目指されたのは、「安心してサボれる会社づくり」でした。「浦河べてるの家」に集うのは、「3分しか集中できない」「お金の計算が苦手」などさまざまな弱さを抱えた人びとです。そういう人たちが「がんばってひとりでやろう」と抱えこむと、問題はたまっていつか一気に噴出し、仕事もできなくなってしまいます。逆に個々の困難を共有し、サボっても補い合えるつながりをつくることで、仕事は持続可能なものになります。職場とはこのようにもありうるのだと、目を開かされます。
【生活態度としての能力】
労働経済学者の熊沢誠さんは、日本的企業の正社員に求められるのは「生活態度としての能力」だといいました(『能力主義と企業社会』1997、岩波新書)。日本的企業では、職務内容や勤務地が事前にわからず、入社後に配属が決まったり、急に転勤になったりします。そこでは、会社の命令に従順、つまり残業も休日出勤も率先してやり、出向の辞令が出れば単身赴任もいとわず、仕事のために生活を犠牲にできる社員が「能力が高い」とされ、出世します。
これは、家の仕事をしない「男性」労働者を前提しています。こんな仕事の仕方が評価される限り、ケア責任を負う労働者や女性の「能力」が万全に発揮される職場の実現も難しくなります。
貴戸理恵 著