最初にセカンドオピニオンを求めてクリニックにやってきた患者家族は、中部地方からお見えになった。小児がんの神経芽腫の手術を終えて、今後どういう抗がん剤治療を選択するかという質問だった。1時間くらい話をしたが、料金をいただく段になって、はたと困った。本当にお金を受け取っていいものだろうか?大学病院時代だって結局お金は手にしていない。

 わざわざ若い親が遠方から来ているのだ。交通費だってけっこうな金額だろう。その上さらに、何万円も請求されたらちょっと辛いのではないか。10秒くらい迷って、ぼくは一般診療の初診料だけ受け取ることにした。

 この患者さんを皮切りに何人かのがんの子どもの親がうちのクリニックにやってくるようになった。診察時刻はいつも定時の診察時間が終了したあと。受付のスタッフに一人残ってもらい、最後に会計を済ませて電子カルテを閉じるという流れになっていた。このスタッフにはそのたびに残業をしてもらって今でも本当に感謝している。

 結局セカンドオピニオンに対して自由診療のお金をいただいたことは一度もない。毎回、初診料か再診料のみである。いや、2回目以降はメールのやり取りになり、無料で助言したことも数えきれない。

子の肝臓がんが左右の肺に転移
やつれた父親はアポ無しで現れた

 無料と言えば、大学病院にいたときにも無料でセカンドオピニオンに応じたことが1回だけだがあった。その患者家族は福岡から来た。子どもの肝臓にがんができる肝芽腫。それが左右の肺に転移していた。もう時効だから書いてもいいと思うが、元の病院は九州大学小児外科だった。あらゆる治療をやったが肺の転移が広がり、もう治療手段がないと宣告されていた。

 父親はセカンドオピニオンを受けたいと主治医にお願いした。主治医の返事はこうだった。

「これまでの治療経過をすべて資料としてまとめます。しかしうちより優れた病院は日本のどこにもないので、セカンドオピニオンを求める病院は自分で探しなさい」

 こうして父親は分厚い資料を抱え、九州から本州へ次々と病院を渡り歩いたらしい。すると、千葉大病院は肝がんの治療に関して消化器内科(もちろん成人の)が有名だと知った。そこで千葉大病院へやってきた。消化器内科へ行くと、「子どもは小児外科です」と言われ、小児外科の外来に突然現れたのである。