本の内容に
エピソードを重ねる

「本を読むのは好きだけど、人に伝えるのが苦手で......」という人におすすめしたいのが、自分の体験を重ねながら説明するというやり方です。文章を引用しつつ、そこに自分のエピソードをひとつ重ねてみるのです。

 大学で学生に「論語の言葉の中から任意でひとつ選び、意味を説明してください」と言うと、なかなかうまくできない人もいるのですが、「自分のエピソードをつけて」と言うと、なぜかできてしまうのです。

 たとえば、「知らないことは正直に知らないとする、それが真に『知る』ということだ」という意味の言葉があるのですが、自分も知ったかぶりをして尖っていた時期があったという話をつけ加え、「実は私も......」と説明をしてみるわけです。

 その言葉を選んだ時点で、心に引っかかるものがあった可能性もありますから、その「心当たり」を思い出しながら読むクセを、普段からつけておくのです。

 この「エピソード読み」は、過去の自分を掘り起こす作業です。

 アウトプットを前提にしているので記憶の定着も助けますし、自分の話として説明できたということは、内容を「自分のもの」にできたことにもなります。面接のときに、座右の銘について聞かれたとき、ただ言葉を挙げるのではなく、自分の体験を重ねて説明できれば、面接官は「この人は言葉を自分のものにできている」と評価するでしょう。

 ちなみに、自分の体験や考え方に近い本を読むと、人の脳は感情をつかさどる部分がより刺激されるといいます。『論語』を読んで、「あ、これは自分のことだ」と共感できれば、『論語』の世界観に容易に入り込んでいけるはずです。

 つまり、「自分に近い本」を選んで読むと、心は動かされ、物語の世界にも身を委ねられます。