南砂町駅を大改造する
最大の目的とは

 まだまだ第一歩というところだが、筆者も東京メトロ在職中に多少ならずとも関わった工事だけに、非常に感慨深い。南砂町駅改良工事が事業計画に明記されたのは2011年3月のことだが、この時の完成予定は「2018年度以降」だった。

 それが2020年度になり、2022年度になり、退職してしばらくすると2027年度になっていた。その間にコロナ禍があり、事業そのものの継続が危惧された時期もあった。

 工事が遅れる要因はさまざまだが、ざっくりまとめると、地下工事は掘ってみないと分からない、ということに尽きる。

 南砂町駅は周辺に用地がなかったため、洲崎川の下に建設された。後に洲崎川は埋め立てられたが、今回の工事で掘り返したところ大量の廃材が埋まっていることが判明。加えて江戸以来の埋立地である江東区は超軟弱地盤であり、工事中に既設トンネルの沈下、隆起を防ぐための地盤改良工事が難航した。

 予定通りに完成するとしても構想から16年の大事業だが、そこまでして南砂町駅を大改造する理由とは何なのか。最大の目的は東西線の輸送改善であった。

 コロナ前は首都圏の最混雑路線だった東西線は、中野方面の朝ラッシュピークには1時間に27本の列車を運行している。これ以上の増発は困難だが、混雑率を国の目標値180%以下に収めるには増発するしかない。

 複線で1時間当たり30本の列車を走らせることは不可能ではないが、単純に列車を増やすだけではダイヤは機能せず、輸送力はかえって落ちてしまう。本連載でもたびたび触れているように、混雑と遅延は表裏の関係にあるからだ。

 列車の間隔は駅停車中に最も短くなるが、駅の停車時間はしばしば延びがちだ。混雑する電車の乗り降りに時間がかかったり、あるいは駆け込み乗車でドアを再開扉したりで生じた遅れは、自動車の渋滞と同じように後続列車に波及する。

 最短2分15秒間隔で運行する東西線では、遅延2分当たり列車1本が消えてしまうので、ピーク1時間の輸送力が減少し、混雑が悪化。こうして混雑と遅延は相互に影響しながら雪だるま式に膨らんでいく。つまり遅延のコントロールが混雑緩和のカギとなる。

 屈指の混雑路線でありながら1時間30本の運行を実現しているのが、JR中央線快速だ。同線はラッシュ時間帯、三鷹、武蔵小金井、国分寺、立川など2面4線の主要駅で、列車がホームに交互に停車する「交互発着」を行うことで遅延を吸収している。これだけの設備があって初めて成り立っているのが中央線の朝ラッシュなのである。