コロナ禍を経た現在も
大事業を進める意味はあるか

 では東京メトロが1000億円超(副都心線建設の3分の1以上!)を投じて進める「東西線の輸送改善」事業は、コロナ禍を経てもなお意味があるのだろうか。

 199%を記録した混雑率は大幅に減少し、2022年は138%まで低下した。利用の回復で2023年はもう少し回復している可能性があるが、かつての混雑が戻ることはないだろう。さらに言えば、東西線の輸送改善策が決まった当時は全く想定されていなかった、有楽町線豊洲~住吉間の延伸が決定。完成の暁には東西線の混雑率はさらに引き下げられる。

 東西線の輸送改善の中には、木場駅のシールドトンネルを解体し、ホーム・コンコースを拡張する大規模改良工事のように、コロナ後の利用動向を見極めるため無期限休止となったものもある。土留めくいを打ち、地下3.5メートルまで掘削していたが、まだ本格的な構築工事には至っていなかったため、土を埋め戻している。

 これに対して工事を続行した南砂町と折り返し線は、既にかなり進んでおり、木場駅とは単純比較はできないものの、サンクコスト(すでに発生してしまい回収できないコスト)とは判断しなかった格好だ。

 それはなぜか。交互発着機能は、たとえ本数が減ったとしても遅延抑制、安定輸送の実現に効果が大きいとか、南砂町で緩急接続する新たな優等列車の設定や、九段下始発の西船橋方面への着席列車の設定など攻めの営業施策の可能性など、さまざまな「解」と「可能性」を想定することはできる。

 株式上場を控えるメトロは、巨額の投資判断の説明を求められる機会も増えるだろう。利用者もまた南砂町駅を中心とした東西線の未来像を知りたいと思っている。今後の発信に期待したい。