しかし、上記のような診断を受ける可能性が高い人のことをここでは便宜上サイコパスと総称するとすると、サイコパスは何も凶悪犯罪者やその予備軍だけとは限らない。

 中野によると、サイコパスは恐らく100人に1人はおり、もしそうだとするならば日本全国に約120万人もいる計算になるという。

サイコパスには
「良心」が欠けている?

 サイコパスとはどうやら極めて珍しい凶悪犯のことを指すのではなく、社会の中にかなりの確率で存在する人々のようだ。

 それでは、サイコパスとは具体的にはどういう人格障害なのだろうか。

 心理学者のマーサ・スタウトは『良心をもたない人たち』の中で、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の分類と診断の手引」(第4版)にある「反社会性人格障害」の臨床診断について紹介している。それによると、ある人が次の7つの特徴のうち、少なくとも3つを満たしている場合、精神科医はその人が反社会性人格障害、つまりサイコパスだと疑うという。

 それは「社会的規範に順応できない」「人をだます、操作する」「衝動的である、計画性がない」「カッとしやすい、攻撃的である」「自分や他人の身の安全をまったく考えない」「一貫した無責任さ」「ほかの人を傷つけたり虐待したり、ものを盗んだりしたあとで、良心の呵責を感じない」の七つである。

 最後の条件だけやたら長い上に、それだけでももう十分「ヤバい」やつだと思うのだが、こうした定義は犯罪性に焦点を当てているためかなり限定的で、研究者や臨床家の中にはサイコパス全体に共通する別の特徴を付け加える者もいるとスタウトは述べている。その特徴とは、「口の達者さと表面的な魅力」「病的に嘘をつき、人をだます」「感情の浅さ、ぞっとするほどの冷たさ」などである。

 ちなみにスタウトは、サイコパスはアメリカの人口の4パーセント、つまり25人に1人はいると主張しており、これは先ほどの中野による推定よりはるかに多い。確かに今挙げた条件を見ていても、正直に言ってこれではかなりの人がサイコパス認定されてしまうようにも思える。