近い将来、日本にも
「ネサラゲサラ詐欺」が蔓延?

 ここまで言えば、筆者が何を心配しているのかお分かりだろう。ほとんどの企業経営者に「ネサラゲサラ」というストーリーをもちかけても「M資金」と同様に冷笑される。しかし、中には信じる人もいる。そして、そういう人こそ「いいカモ」なのだ。

 たとえばある日、企業経営者のもとに、「国連やアメリカ政府が秘密裏に進めているネサラゲサラに関わる秘密組織のメンバー」を名乗る人がやってくる。そして、「新しい金融システムを構築するために企業経営者の候補に、あなたが選ばれました。つきまして、その審査を受けるための経費が必要になります……」なんてことを言って大金を要求するのだ。

「妄想乙」という声が聞こえてきそうだが、「ディープステート」のような陰謀論が日本よりも広まっているブラジルでは、すでに「ネサラゲサラ詐欺」が発生している。現地のニュースを伝える『ブラジル日報』によれば、「ネサラゲサラ」のストーリーを用いた投資詐欺話により、5年間で1億5600万レアル(約46億6000万円相当)を騙し取ったグループが逮捕されたという。

https://www.brasilnippou.com/2023/230927-18brasil.html#google_vignette

 有名人を語る投資詐欺が問題になっていることからもわかるように、詐欺グループは人の心の隙につけ込むために日々、研究を続けている。そういう「騙しのプロ」たちに昔よく取材をした。ある時、巨額詐欺のコツを聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「大きなカネを引っ張るには中途半端な話ではなく、現実離れした壮大なストーリーの方がいい。特に経営者は現実的な話は聞き慣れているので、やりすぎかなってくらいぶっ飛んだ話の方がのめり込んでいく」

「実は国連とアメリカ政府で秘密裏にネサラゲサラという新しい金融システムの整備を進めている」というストーリーはまさにこの条件にピッタリではないか。

 あと数年もしたら、「またネサラゲサラ詐欺に、有名企業経営者が引っかかった」なんてニュースが世間を賑わせているかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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