実際、何をおいても「個人の自由」を尊重するアメリカ人は、3分の1が陰謀論を信じているという調査もある。「思想の自由」というのは、国家や社会にとって望ましくない異端の思想であっても、法を守っている限りは存在が認められるということなのだ。

 ただ、そのような話とはまったく別の問題もある。ネサラゲサラのように「信じる人は信じるけれど、信じない人はまったく信じない」というストーリーは、詐欺のネタになりやすい。

多くの経営者がカモにされた
「M資金詐欺」の悪質度

 わかりやすいのは、「M資金詐欺」だ。

 ご存知の方も多いだろうが、「M資金」とは、1970年代から存在する都市伝説だ。

 GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が占領下の日本で接収した財産などをもとに、極秘に運用されているという秘密資金のことで、日本を代表する有名経営者の多くは、実はこのM資金を受け取って会社を成長させた――というようなストーリーが半世紀にわたって語られている。

 では、これがどう詐欺のネタになるのかというと、ある日突然、企業経営者のもとに、この秘密資金を管理している組織の者だと名乗る人物から連絡があって、「あなたが選ばれました」と声がかかるのだ。そこで、さまざまな資料を見せながら、こんなことを言う。

「我々は、日本の経済発展の中心となる企業を育成するための基金を管理しています。このたび、あなたがこの資金から2800億円の融資を受け取る候補になりました。つきましては、交渉や資金を管理するための経費が必要になります……」

 そんな荒唐無稽な与太話に引っかかるわけがない、と思うかもしれないが、これまでさまざまな経営者がカモにされている。最近でも外食大手のコロワイドの蔵人金男会長が騙され、M資金話を持ちかけたグループに対して、裁判所が36億円の賠償命令を出している。つまり、それくらいの額がこのストーリーで引っ張られてしまったということだ。