社員に協力を呼び掛ける前に
経営者がコミットすべきこと

 経営者は、現場から離れて何年もたち、経営の仕事で心身を削る日々を重ねるうちに、ご自分が現場にいたときの思いを忘れてしまいがちです。

 しかし、現場には、これまで会社を支えてきたのは自分たちであり、いまの働き方だという自負があります。「仕事のやり方を根本から変えろと言われても……」と戸惑っているのは、むしろ現場を背負う責任と気概からなのかもしれない。

 そこを「ただただ変化を拒むヤツら」などと誤解したままでは、いかに具体的な施策を打ち出そうとも、社員の協力はけっして得られません。

「社長が変革について本気なのはわかった。今回は『やっている感』の演出ではすまさない、と思っているのもわかった。しかし、それは現場の業務を根底からくつがえすことなのだというところまで、本当にわかっているのか?」

 社員が本当に「イヤだ」「これは大変なことだ」と思っていることを理解せずに、「時短ができれば早く帰れる、嬉しいことだと思わないのか?」などと呼びかければ、賛同が得られないどころか、無神経としか思われません。

「時短によって現場の仕事は混乱し、初年度は大きな減収減益になるかもしれない。いや、それは何年も続くかもしれない。私はけっして『そこはうまくやれ』などとは言わない。その責任は私がすべて負い、株主・債権者をはじめ、ステークホルダーにしっかり説明する。いま、その痛みを乗り越えれば、当社は生まれ変わることができるからだ。社員のみなさんの報酬も、減益を理由に減らすことはしないと確約する」

 ここをきっちりと社内(そして社外)にコミットして初めて、「どうか協力してほしい」と呼びかけることが許されるのです。

 あなたのコミット不足のせいで動かない社員を、「ガラパゴスめ」などと揶揄する。そういう独り言は、瞬く間に全社に伝わります。改革どころか、以前よりも空気が悪い会社になってしまいかねません。